大司教に死来る (須賀敦子の本棚 池澤夏樹=監修)
大司教に死来る (須賀敦子の本棚 池澤夏樹=監修) / 感想・レビュー
たま
19世紀後半、二人のフランス人司祭がニューメキシコ一帯の広大な荒野に派遣され教区の立て直し(既にスペイン人らが宣教)に奔走する。どこに行くのも何日もかかり、食うや食わず、野宿しながら危険と隣合わせ。この土地の19世紀後半は、南北戦争と奴隷解放、ナヴァホの強制移住、鉄道開通、ゴールドラッシュと騒乱の時代だが、この小説は時系列に沿って歴史を追うのではなく、風景描写と郷土色豊かなエピソードを繋いで、大司教の臨終に至ってそれらがタピスリーのように編み上がる仕掛けである。2人の人柄、友情が爽やかで心に残る。
2023/02/10
nobi
延々と続く仄暗い迷路のような「アブサロム、アブサロム!(W .フォークナー)」を抜けて、光と色彩とに溢れたローマの別荘のテラスに舞い降りた感じ。そこから広大な新大陸に放り出されても、神父達とともに行くが如く風景が広がり大気雨砂…を肌に感じる。数千マイルに及ぶ布教の旅は命懸け。しかし言葉少なに随行するインディアンもキリスト教徒のようにみつめる二頭の騾馬もいる。創世記に思い致す丘(メサ)が、過酷な歴史を経た村(プエブロ)が、温かく迎える家族も、悪徳の輩もいる。自然への異教の徒への純な眼差しは宗教の原点のよう。
2023/02/26
syaori
舞台は合衆国に併合されたばかりのニュー・メキシコ。米国人、メキシコ人、インディアン。様々な人々が暮らす地に赴任したフランス人司教の半生が描かれます。それは、入植初期のスペイン人宣教師たちの布教の歴史やインディアンと白人の対立と友諠、インディアンの信仰や生活などと混然と溶け合っていて、その中では悩みも苦しみも静謐で穏やかな色を纏っているよう。そんな、遠い聖人伝を思わせる物語が胸に迫るのは、訳者も言うとおりこの描写のなかに「真実」が、苦悩や悲嘆を昇華した後に残る純度の高い〝何か”があるからなのだと思います。
2019/01/23
ヘラジカ
辺境地に派遣された司教と神父の活動を描いた作品。二人は過酷な大地で過酷な生活を送りながらも、現地人とその風土文化に純粋な気持ちで触れていく。大自然と異種族を受け入れ融合していく二人の様々な物語は読んでいて心が浄化されるようだった。お気に入りはVI章の「ドーニャ・イサベラ」と、勿論VIII章「パイクス・ピークの黄金」。最終盤の涙が手紙の上に滴るシーンでは思わずこちらも目頭が熱くなった。最初は風景描写ばかりでもどかしく思っていたけれど、まさか最後には読み終えるのが惜しくなるとは。終わり方もとても美しい。名作。
2018/08/19
maja
19世紀半ば、アメリカの新領土ニュー・メキシコの地でキリスト教布教に生涯を捧げるフランス人神父の物語。15世紀、フランシスコ会神父たちによってキリスト教化されて以来、放置されていた教区の再興に努めるラトゥール司教とヴァイヨン神父。大平原の途方もない距離を教区から教区へ騾馬で移動するふたりの神父とそこに生きるさまざまな人たち、独自・独走してかたちらしきものを保つ数々の教区のエピソードが描かれる。太古の面影を留める乾ききった辺境の風景とともに、心に残りまた広がっていく印象深い作品でまたいつか読みたい。
2024/08/30
感想・レビューをもっと見る