小さな徳 (須賀敦子の本棚 3)
小さな徳 (須賀敦子の本棚 3) / 感想・レビュー
アン
『ある家族の会話』の著者によるエッセイ集。夫の流刑に伴い幼子達と故郷を離れ寒村で暮らした日々「アブルッツォの冬」、疎開する両親に子供を預け、一足しかない靴でローマの道を歩く自由な人生「ぼろ靴」、対照的な夫婦の愛情に満ちた姿がコミカルに綴られる「彼と私」、子供の教育と天職を語る表題作など11編。最愛の夫との苛酷な別れさえも淡々と静かに述べ、「ぼろ靴」は須賀さんの『ユルスナールの靴』の冒頭の文章に通じるものを感じ、凛と前を向き心たおやかに生きる姿が印象的。人生を慈しみ愛する尊さを教えてくれる味わい深い作品。
2021/12/18
ヘラジカ
イタリアの作家ギンズブルグのエッセイ集全訳。短い文章ながらも響くものが非常に多い。詩的な存在をそのまま、あるいはそれ以上に詩的なものとして表現する素晴らしさ。対象への文章による接し方というか、見つめる眼差しが須賀敦子と本当によく似ている。迫害や戦争の傷跡を書いたものが多い点は須賀さんのエッセイとは少し違うが、死別した夫との距離感など、素人目にも原点がここにあることが分かる。短くもヴィヴィットな自伝的エッセイ「人間関係」、明快で納得してしまう教育論的な文章「小さな徳」が特に良かった。
2018/10/16
みねたか@
エッセイ集と呼ぶにはあまりにも濃密で味わい深い作品群。夫と幼い子供と過ごした流刑地での日々を顧みた「アブルッツォの冬」。蘇る鮮やかな情景とその時の思いに胸を締めつけられる。「彼と私」や「イギリスに捧げる讃歌と哀歌」はウイットに富みリズミカル。その他の4編には著者の人間観,職業観,子育ての考え方が語られるが,ファシズムと戦火を潜り抜けた世代としての責任感と覚悟が強く感じられ読み応えがある。「須賀敦子の本棚」と銘打たれたシリーズの1作目。俄然他の作品も読み進めたくなった。
2022/08/05
かもめ通信
18頁にわたる読み応えのある訳者あとがきと池澤夏樹氏による8頁の解説を加えても165頁という薄い本ではあるが、ものすごく読み応えのあるナタリア・ギンズブルグ(1916-1991)のエッセイ集。読んでいるとなぜか、見知らぬ土地にに対する郷愁と、著者と著者が愛した人々に対する切なく愛おしい想いがこみあげてくる。しみじみと良いもの読んだと思える1冊だった。
2024/05/06
おおた
論理が逸脱せず親身なやさしさをもっている。戦争の苦労や身内との離散・死別を経験したからここまで優しくなれるのだろうか。文中でも解説でも言われているのは、自分にしがみつかずに他者として突き放した文章であること。現実のささやかな正しさにしがみついて大志を忘れてしまうことの危機感を説く表題作は特に身に染みた。作者の小説もぜひ読んでみたくなる。
2019/01/31
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