草迷宮 (パン・エキゾチカ)
草迷宮 (パン・エキゾチカ) / 感想・レビュー
yn1951jp
「人間の瞬く間を世界とする」魔界の女が唄う「芳しい清らかな乳を含みながら、生れない前に腹の中で、美しい母の胸を見るような心持ちの唄」、「たった一節の手毬唄の不在によって充たされた鏡花の小宇宙…その手毬が…丸やかな『母の乳房』にたどりつく、球体幻想の世界」(鏡花美学のディスクール、寺山修司1979)「幼い折時々聞いた鞠歌などには随分残酷なものがあって…この調節の何とも言へぬ美しさが胸に沁みて…こんな時の感情が『草迷宮』ともなり…」(予の態度、泉鏡花1908)
2015/05/16
ひろ
これまで読んだ泉鏡花作品の中では難解な部類だった。場面が思いがけず転換したり、語りの中で状況が描写されたりと、話の筋を完全には追い切れていないと思う。それでも、ただの一文だけでも、類稀なる表現力に圧倒される。描写や比喩が重ねれられ匂い立つ、時の隔たりを感じさせない瑞々しさ。幻想的という言葉ひとつでは片付けられない奥行きと凄みがある。そこに山本タカト氏の絵が見事に合っている。思わず魅入ってしまう。よい読書体験ができた。
2019/03/15
ぐうぐう
昨年、金沢にある泉鏡花記念館を訪れたとき、物販コーナーで一目惚れし、購入したのが本書。山本タカトの装画が素晴らしい。幻惑で妖美な鏡花の世界を、ものの見事に表現している。美しい鏡花の文体を補完し、溶け合った画に、まさに魅せられるのだ。かつて澁澤龍彦は「ランプの廻転」の中で「私が数多くの鏡花作品のなかでも、とりわけて『草迷宮』の一篇を愛しているのは、その作品全体が、なお廻転する迷宮のような印象を私にあたえてやまないからだ」と述べた。さらに澁澤はその出口なき迷宮を、退行の夢と称するのだ。(つづく)
2016/02/08
芍薬
鏡花の文章に山本タカトの絵がつくこの贅沢さ!文章と挿絵のタイミングが完璧で、うっとりするような幻想世界に連れていってくれます。
2015/02/03
さっちゃん
どうして人は妖しく哀しく美しいものに魅かれるのであろうか。それは昼の向日葵のようにあっけらかんとしたわかりやすいものではなく、月の隠れた一瞬のうちに取り拐われてしまうような、あっ、と声を出す間もなく深い奈落に突き落とされるような、逃れられない、底の見えないものである。何処から聞こえてくるのか、手毬唄とともに異界の者たちの気配がする。芋茎の葉を被った童たちが駆けて行く。流れるような言葉の連なり。夢とも現ともわからぬ。あな美しや、あな怖ろしや、鏡花の世界。ああ、うっとり。
2015/06/27
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