死なない剣豪 (広済堂文庫―山田風太郎傑作大全) (廣済堂文庫 や 7-17 山田風太郎傑作大全 17)

タツ　フカガワ

全7話の短編集。将軍家剣法指南小野忠明の屋敷に、出産の有無にかかわらず乳の出ない女の乳を吸い出す奇妙な老人がいるという噂を聞いた柳生十兵衛は、その老人とは小野忠明の師伊藤一刀斎ではないかと小野道場へ乗り込む。そこから始まる表題作の奇抜な筋立てはいかにも山風先生ならではで、どこまでも膨らんでいく妄想、いやいや想像力についつい顔がほころぶ楽しい一編でした。その他既読ながら何度読んでも面白い「慶長大食漢」と「お江戸英雄坂」二編も収録。

2021/10/14

二笑亭

7つの短篇すべて、時の流れ、世の移ろいの無常さを感じさせて面白い。一番それを感じさせるのは「国貞源氏」。映画『切腹』と同じ題材の「お玄関拝借」はやはり後味が悪い。収録作で特にお気に入りなのは、歴史の裏に忍者ではなく料理人ありの「慶長大食漢」、柳生十兵衛を探偵役に据えた前半から後半は奇怪な展開となる「死なない剣豪」の2篇。李舜臣をロンメル、ネルソンになぞらえ、信長・秀吉・家康をそれぞれヒトラー・ルーズベルト・（強いて言えば）チャーチルと当てはめる点から、作者の歴史観・視点がうかがえる。

2021/12/27

hirayama46

ノンシリーズの時代もの短編集。アイロニカルで風刺的な「お玄関拝借」、異形の存在感のあるおじいちゃんを描いた表題作が印象に残っています。柳生十兵衛や水野忠邦は出てきますが、歴史的にものすごい大人物として残った人はあまり出てこないので、全体的には派手ではないですが、物語の面白さは十二分であり楽しめました。

2022/04/25

ベック

表題作は、あの柳生十兵衛が登場し、剣法師範小野家に住み込む奇怪な老人の謎を解こうとする佳作である。老人の正体が剣聖といわれる伊藤一刀斎だということははやくからわかるのだが、この一刀斎にまつわる数々の伝説が言い伝えと異なる真の解釈をもっているということがわかるくだりがおもしろい。かの傑作「妖説太閤記」に通じる、風太郎推理の妙味である。

denz

収録作全てが良作。

2010/10/01