砂時計 (光文社文庫 あ 12-7)
砂時計 (光文社文庫 あ 12-7) / 感想・レビュー
geshi
推理小説という枠ではなく泡坂さんの円熟のテクニックを使って人間を描く一般小説に近い印象。前半5編は紋章上絵師としての顔が表に出た作品で、『硯』の真相が分かった時の心揺さぶる思いや『色合わせ』の多くを語らぬ最後の一行なんかが滋味深い。『静かな男』は泡坂流のホワイダニットながらトーンが抑えめ。『深紅のボウル』はマジシャンとしてプロになれなかった作者自身を反映しているようで、ラストは寂しくも人生を否定していないのが響く。『砂時計』は奇妙な同棲関係の危うさの裏にずっと砂時計があるスリル。
2023/07/15
coco夏ko10角
10の作品収録の短編集。『硯』『真紅のボウル』『砂時計』がよかった。
2017/03/05
Tetchy
怪奇小説、人情小説、はたまたエッセイめいた私小説などヴァラエティに富んでいる。共通しているのは透明な視線で描かれた抑揚のない文章。そういった文章であるのにも関わらず登場人物達の彩りが鮮やかであること。特に紋章上絵師を主人公にした一連の作品群はもう縦横無尽ぶりの独壇場。不思議なのはいやに「死」を結末にすること。「滅びの美学」を泡坂が老境に入ったこの頃、如実に意識していたのではないだろうか。紋章上絵師として、奇術師として、そして作家として去り際は粋で美しくありたい、という願望が見え隠れしているように思える。
2009/05/21
くろ
これぞ名人芸!というより職人芸?ハッとするサプライズこそ少ないものの、人情・哀愁漂う練達の書き手による短編集。解説にもあったように、小道具が生きている。お気に入りは「硯」「色合わせ」「砂時計」
2019/03/29
浅木原
推理小説集扱いだけど、10編のうちミステリらしいミステリと言えるのは「三つ追い松葉」「静かな男」「鶴の三変」ぐらいで、あとは職人もの中心の人情小説系。奇妙な強盗犯の動機を証言集形式で探る「静かな男」は非常に連城っぽいけど連城には及ばんね。「三つ追い松葉」「鶴の三変」もあんまりミステリに力点を置いてない感じはする。全体にミステリを期待して読んだので肩すかしな印象だけど、二流奇術師の生涯を描くノンミステリ「真紅のボウル」は傑作。「ダッキーニ抄」といい奇術師の話書いてるときがいちばん活き活きしてる気がするよ。
2014/11/04
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