人それを情死と呼ぶ: 鬼貫警部事件簿 (光文社文庫 あ 2-33 鮎川哲也コレクション)
人それを情死と呼ぶ: 鬼貫警部事件簿 (光文社文庫 あ 2-33 鮎川哲也コレクション) / 感想・レビュー
W-G
『死のある風景』とともに好きな作品。容疑者が新たに浮かび上がる時の、視界が反転するような意外性の演出の仕方や、ラストの寂しい余韻など、コンパクトな物語ながら、A級作品の風格が備わる。トリックに関しては、特に寒参りのものなど、人工的に過ぎるというか、クイズの出題、もっとストレートに悪くいってしまえばゲームチックで実現性に乏しい。にもかかわらず、社会派な匂いすら感じさせるのは、調理の腕が良いということでもある。改めて、何作か再読していくと、氏はトリックメーカーとしてカーへ通じる部分も意外に強いのだと感じる。
2018/06/23
🐾Yoko Omoto🐾
鬼貫警部と言えば、火サスで大地康雄さんが演じていたシリーズがとても印象に残っている。調べてみて驚いたのは、この「人それを情死と呼ぶ」が、このシリーズ含め6回もドラマ化されているということだ。“情死”という、どこか淫靡で哀切を漂わせるモチーフ所以であろうか。練られた偽装工作やアリバイトリックを、僅かな綻びから手繰っていく精妙なプロセスは見事。50年以上も前の作品であるため、現在の科学捜査ではまず通用しない点はあるが、罪に罪を重ねなければならなくなる悲しき悪循環が、人の罪に纏わる不変を感じさせる名作である。
2015/11/22
へくとぱすかる
読み始めてたちまち、ぐいぐいと作品世界に引きこまれた。恐ろしいほどの文章力とリーダビリティ。全く傾向は異なるが、傑作『黒いトランク』と比べても遜色がないほどトリッキーな作品である。汚職事件と情死とくれば、発表当時隆盛をきわめていた社会派ミステリの軍門に下ったかと考えてしまうが、そこは本格ミステリの驍将である作者のこと、むしろ徹底的に本格派を貫くのである。アリバイトリックの見事さに脱帽するだけではなく、逆転また逆転で、読んでいて目が離せなくなる。そしてタイトル。これはやられた! そうだったのか。溜息が出る。
2022/02/12
森オサム
贈収賄事件に関与していた人物が愛人と失踪する。後に山中で二人の死体が発見され、先を悲観しての心中で有ったと思われたのだが、些細な事をきっかけに偽装では無いか、との疑問を持たれる事となる。1961年の作品なので、時代の違いを感じる違和感は仕方の無い所でしょう。さて、トリックはやはり大したことは無い。しかし小説としてとても美しく、登場人物の全てが息づいている事に感動した。本格作家のイメージだけで単純に測れない、叙情や余韻、心理描写の巧みさが有る。タイトルが素晴らしい、と思う感性をお持ち方は読んで損は無いです。
2018/09/22
goro@80.7
収賄事件を苦に愛人との無理心中事件と思われたが、割り切れない妻と妹の由美が事件を追う。鬼貫警部物だけど由美の推理が犯人を追い詰めて行く姿が一途で良い。これは本格推理の度合いは低いが最後の哀愁感は心に残る。アリバイは崩すよりも作るほうが難しいわ。崩せなかったら推理小説じゃなくなるし、カタルシス得られないものねぇ~。
2020/05/03
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