モンティニーの狼男爵 (光文社文庫 さ 19-1)
モンティニーの狼男爵 (光文社文庫 さ 19-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
『バルタザールの遍歴』にはじまる佐藤亜紀の一連の偽史小説を、彼女の作品系列の本流とするならば、本書はやや傍流めいて見えるだろう。ことに前半では。それが後半に、変身譚に文字通り変貌を遂げる時、歴史の裏側に潜む寓話として断然その輝きを帯びてくるのである。時は、フランス革命前夜。サドがバスティーユに捉えられていた、まさにその頃。ただし、ここモンティニーの森はパリからは遥かに遠い。その時代にあって狼が跋扈するくらいには。テーマの上から本書が近接性を持つのは『山月記』である。しかもそれは「自意識」において通底する。
2022/08/16
南雲吾朗
ラウール・ド・モンティニー男爵の回顧録。恋愛小説の形をとっているが、そこは佐藤亜紀氏の書く物語である。当然、普通の恋愛小説ではない。狼になってしまった男爵が感じる自由と、獣でしか知覚しえない嗅覚、視覚、そこから感じ取れる自然の雄大さ。どれも素晴らしい表現でまるで自分自身が体験しているような錯覚に成る。いつも思うのだが、佐藤氏の文章は本当に素晴らしい。
2018/05/29
眠る山猫屋
ラウール・ド・モンティニー男爵が恋したのは、莫大な持参金の付いた地味なドニーズだった。革命前夜のフランスの片田舎、特に思想もこだわりも無いラウールが結婚し、妻に不倫され、狼に変わってゆく。男って脆いよね。それでもこの夫婦は絆を取り戻し、末永く寄り添って生きていきましたとさ。ここまでなら昔話です。でも作者の目はもっと冷徹。ラウールは妻の愛を心からは信じてなくて、そんなもんだろう、それで感謝しようと思っているし、ドニーズは後悔はしていないと言い切る。実に現代的、リアル。まぁ今時の男は狼に変身しないけれどね。
2018/02/20
kana
お伽話風&自虐的語り口にふわりと乗っていたら気づけば読了してました。あーおもしろかった!と言いたくなるラスト。狼男爵はあんまりあわれでかわいそうなんだけど、不器用で愛らしくってほのぼのしちゃう。また、舞台が18世紀フランスというのがステキ!フランスの当時の文化やライフスタイルや歴史に関する描写が物語を、よりいきいきとさせています。
2011/04/13
ふじみどり
男爵が夫人を見初める行がよかった。この本の後に18世紀に書かれたフランス文学を読んで、なお遜色ない古典美を醸していたことに気付かされる。この手の恋に溺れるばか丸だしの貴族が描かれている上等な本というのが嫌いじゃない。現代の日本人女性の私からみるととてもじゃないが浮世離れしたまさに時代の産物と思える。なかでもこの男爵はかわいらしい。
2013/03/19
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