神聖喜劇 第2巻 (光文社文庫 お 9-6)
神聖喜劇 第2巻 (光文社文庫 お 9-6) / 感想・レビュー
踊る猫
大西巨人によって書かれる軍隊の日常や男女の情事は、こんなにも奇妙でユーモラスだ。大量に引用される文献の情報量に唸らされ、相変わらず洒脱な訛り/吃りの言葉のリズムに酔い痴れ、そして虚無主義を貫く東堂の生き様に共感するものを感じた。正確さを至上とする書き方は堅苦しいが、慣れて来ればこの報告書のような文体もさほど苦にならない。いや、これは「喜劇」だ。戦争という最大の悲劇/惨劇を描きながら、どうしてここまで面白さを滲み出すことが出来るのだろうか。文学の中に哲学や倫理学が溶かし込まれており、読めば読むほどタメになる
2019/07/19
カピバラ
剃毛エピソードの印象が強すぎて、三巻に進む(買う)気になりませぬ…。作者の知識量に舌をまきつつ、これでこのシリーズはあきらめようかしら…一巻の方が読みやすかったなあ。
2020/01/16
松本直哉
「ただ戦って分捕るだけではない」という戦争の目的についての村上少尉の高邁な演説の後で、再び皇国の戦争目的を問われた鉢田が「コウコクとは何でありますか」という場面、吉本新喜劇なら全員が足上げてころぶような滑稽さに吹きだす。本居宣長が使いだした皇国という生硬な無内容への諷刺。入営直前の東堂の、戦争未亡人との情事の妖艶なのに非感傷的な描写では、戦争で死ぬことの目的、その意味あるいは無意味をめぐってのほとんど実存的といえるほどの思索が、多くの詩歌の引用とともに紡がれる。文学だけが可能にする戦争への多面的な批判。
2019/09/18
無識者
重いのだけれどもやっぱり面白い。無学の軍曹が学問を否定するような場面もあれば、軍曹の核心を突いた「殺して分捕るのが戦争の目的」に対し、士官学校出の少尉はそれを否定をし、「アジア開放」が目的であると正す。現場で実際動く人の本音は重い。いくらきれいごとを言っても実際に戦う兵士にしてみればやるかやられるかの世界である。軍隊の中に現代日本の縮図が見れてしまうのは皮肉なものである。
2016/02/18
おおにし
第3巻まで読了できたので、第2巻を記録しておく。この巻は何といっても東堂と安芸の彼女の媾曳きシーンが印象に残るが私は剃毛エピソードより、川端康成「高原」などについて語る二人のアカデミックな会話が心に残った。また、村崎古兵が語る軍隊での給与格差や学歴格差の話が興味深い。皇国の意味が分からず戦争の目的は「殺して分捕るのこと」だと理解している新兵は実際に存在し前線で戦ったのであろう。文学作品ではあるが日本軍組織のリアルを詳細に描いている点は高く評価できる。
2019/08/16
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