神聖喜劇 (第3巻) (光文社文庫)
神聖喜劇 (第3巻) (光文社文庫) / 感想・レビュー
踊る猫
ここに来て、大西巨人お得意のミステリ風味が活きて来た。サスペンスで吊って行きながら、ところどころで笑いを取り展開して行くその語り口は実に見事。ただ、ちょっと中弛みを感じたのは読者として先を急ぎ過ぎたせいか。トーマス・マン『トニオ・クレーゲル』を読みたくさせられた。良質な読者であった大西巨人の面目躍如といったところか。こうして様々な本と触れ合えるのも読書の楽しみ。挫折した時は三巻の最後まで辿り着かなかったので、ここからが正念場ということになる。あまりラストまで焦ることなく、じっくりと読み進めて行こうかと思う
2019/07/19
松本直哉
個を抹殺して規格化しようとする軍の秩序に逆らって個であり続けるためには反時代を貫くこと、そのためには古典に沈潜して古典から今を逆照射すること、それゆえ語り手はあれほど膨大な、江戸漢詩からトーマス・マンに至る引用をしたのかもしれない。身体はどれほど束縛されても脳みそまでは束縛されまいという強い意志。部落差別をめぐる隠微なやりとりが伏流水のように明滅する。人を焼いていたとあっさり白状する元隠亡の橋本と、出自をめぐる噂に超然として寡黙に距離を置く冬木の対照的な二人と、後者に惹かれる東堂と。謎は解かれぬまま四巻に
2019/09/23
おおにし
全5巻を読了して振り返ると、第3巻が一番しんどかった。ここで挫折したくなかったので、流し読みでページを進めた部分が何度もあった。剣𩋡すり替え事件の波紋がどんどん大きくなっていく中、冬木が嫌疑をかけられた理由が出自以外のどんなことなのか分からないまま3巻が終わってしまった。この巻で特に印象に残ったのは、歌人明石海人のこと、床屋が差別される職業であったという驚きなど。
2019/08/24
わっぱっぱ
再読。内務班に起こる“異変”、そして新兵冬木の過去・・・と、主筋は推理小説の様相を帯びる。 今巻でも主人公東堂の博覧強記ぶりは際立っているが、決して正義の味方だとかスーパーマン的な存在ではない。自称虚無主義者で、超人的な記憶力、論理力を持つ彼には、現実社会や俗的な人間感情の機微というものへの理解力が不足しており、自覚もしている。軍隊生活の中で様々なことを経験し、思索する彼の姿は、どこか人の感情を覚えようとする人工知能のようで興味深い。一見理屈だらけの物語だけれど、通底しているのは情動、人間臭さなのである。
2016/08/10
無識者
皮肉の効いた冗談が混ざっており面白かった。部落差別は2巻でちょっと触れるだけだと思ったが3巻でも深く触れる。部落差別はある種「いわれなき差別」という面が強い。それを基に差別の不当性を訴えられる。ではオランウータンとかはどうだろうかと?かと思った。「天は人の上にひとをー…を作らず」には二つ指摘する点があると思う一つは天はというように神を媒介しなければというのと、もう一つは「-をつくらずといへり」と文末がいへりで、輸入物の思想であり自らの必要から獲得した概念とはいいがたい
2016/03/15
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