逃避行 (光文社文庫 し 20-2)
逃避行 (光文社文庫 し 20-2) / 感想・レビュー
ミカママ
リーダビリティは予想以上、篠田さんの「世間に対する」鋭い洞察も、作品に幅をもたせてくれている。いかんせん、主人公の家族に対する卑屈な姿勢、そしてゴールデンが子どもを噛み殺すという可能性に、最後までモヤモヤさせられっぱなしだった。行き当たりばったりの「逃避行」にしても、うまく行き過ぎだし。ラストは老衰のワンコに、読者がもらい泣きさせられるのかと思いきや、、、さすがに篠田さん、ヒネってきたな。
2019/04/26
ヴェネツィア
最初から最後のページに至るまで圧倒的なスピードで駆け抜けてゆく筆力に脱帽。それでいて、ここに展開されるドラマはなかなかに重層的だ。わずか1か月余りの事柄なのに、そこに表現された主人公妙子の人生の重みは、いわば凝縮された濃密なそれである。それまでの彼女の50年の人生のすべてを凌駕してしまうくらいに。ゴールデンレトリーバーのポポの表現がまた周到にして巧みだ。犬への愛情に満ちていながら、その一方では冷静に犬の本質を見据えてもいる。妙子に感情移入しつつ読み進めてきた読者には意外な結末だが、実に上手い終わり方だ。
2017/09/13
じいじ
思わず篠田さん巧い!と叫びたくなりました。全体を重い空気が垂れ込める、辛い哀しいストーリーなのに頁を繰る手が止められません。隣家の子どもをかみ殺してしまった愛犬ポポ。人は人を裏切るけど、犬は人を裏切らない…。「ポポ」を愛し信じる主婦・妙子の一大決意。ポポとの深夜の雪降る凄絶な逃走劇に泣きました、そして人の温かさに感動しました。読み終えて、何故!家族を捨ててまで逃げたのか、妙子の心中が理解できた気がしました。
2018/12/26
新地学@児童書病発動中
主婦の妙子が心を許せるのは、愛犬のゴールデンレトリバーのポポだけだった。ある日ポポが近所の子供をかみ殺してしまう。世間体しか考えない夫は、ポポを保健所に連れて行こうとする。それに反発した妙子は、ポポを連れて家から逃げ出す……。前半は手に汗握る逃避行の物語で、とにかくページをめくってしまう。後半になると、妙子とポポは別荘地に家を見つけてそこで暮らし始める。この部分は次第に老いていくポポが哀れだった。それでも野性を取り戻し、妙子も生きがいを見つける。結末は哀しい。それでも、犬と人の絆の深さには心を打たれた。
2018/07/30
metoo
一気読みでした。愛犬ポポが起こした隣の家の子供への偶発的な事故から、主婦妙子、夫、娘二人の深層心理があぶり出される。愛犬は間違えなく家族の一員であり処分などあり得ないと考える妙子と、世間体を重んじ所詮犬は犬と考える三人。長年生活してきた家族の澱も事故と共に明らかになり、妙子の決断に仕方なしと同調した。家族を捨てた妙子と会社に捨てられた堤とのポポを通じた交流に救われた。一度は野性味を取り戻したポポが最後まで幸せだったと信じたい。
2017/10/08
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