肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)
肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫) / 感想・レビュー
のっち♬
16歳の少年が夫が戦地にいる人妻と姦通。実体験が下地とは言え、冷徹かつ明晰な心理分析や硬質な文体のキレは18歳とは思えない次元で、"幸福=エゴイスト"と信じて疑わない年頃の得体の知れない衝動・困惑と戦時の暴力性・支配欲との重なりや対比も巧い。主人公を残酷かつ純真たらしめる根源を辿ると、人妻より寧ろ恋自体や詩情に淫するナルシズム(登場人物殆どに該当)が現れる。「ジャックと幸福になるより、あなたと不幸になるほうがいい」—ベタな殺し文句も単語を置き換えれば、死に至る病も顧みず芸術に没頭した生き様が浮かび上がる。
2023/05/23
優希
発表当時はかなりスキャンダラスな作品だったように思います。話としては現代に置き換えてしまえば凡庸でありきたりなんですが、引き込まれるものがありました。それはこの作品で描かれる愛がプラトニックなものではなく、肉体を伴うにもかかわらず、心の揺れが丁寧に描かれているからでしょう。「血の繋がらない親子」が最後に見せた救いであると同時に、主人公の虚無感をも感じさせられました。
2017/05/06
takaichiro
分量のある文章ではないのに、読後は結構な疲労感。若さ故の焼き尽くす様な恋心情と、悪魔かと思えるほどの強烈なカラダの疼き。文学の普遍的なテーマではありながら、不倫の一味を加え、様々な感情のゆらめきを心の襞に細かく微振動を与える様に描く。視野が狭まる様な焦燥感に駆られたり、温かく抱かれる優しさに触れたり。振り幅が大きく、速い。これが若さだったかと思い返す。作者は若くして人の心を揺さぶる術を得ていたのですね。本書は訳文なのだから、フランス文学とは何とも奥深い。長い歴史に裏打ちされた文化の賜物。Merci.
2019/07/09
中玉ケビン砂糖
、北村透谷は25歳の若さでみずから命を絶った、夭折というものはとかく人を英雄に仕立てあげてしまうものだが、彼が口角沫を飛ばして語った文学的、あるいは政治的信条というものは、たとえるならば中二病をこじらせたままの青年が、風車に挑んで叫ぶつたないアジテーションの域を出ていないのではないか、と個人的に思う、ラディゲの場合はもっと短かった、20歳、それまでに現実の自分が何をなせたかと自問自答しても、胸をはって答えられる所業はなにひとつとしてない
2015/02/17
buchipanda3
仏文学。何とも強烈な印象を与える邦題。中身の方も淡々としながらも、この小説の主人公である16歳の少年の大人ぶったエゴイスティックで自己完結でしかない心理が緩みなく吐露され、その徹底ぶりに思わずむむぅと仰け反りながらもこの青春物語に引き摺り込まれた。何が彼をそんなこじらせたものにしたのか。冒頭に世界大戦が子供たちの精神に与えた影響が語られるが、単に悲観性に自棄になっているのではなく、冷笑的に皮肉めいた自由を享受するかのようにも思えた。ただその自由は期間限定のものであり、薔薇の嘘もかつての悪であるに過ぎない。
2021/08/08
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