うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1)
うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1) / 感想・レビュー
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
すべてが輝いていた、祝福された薔薇色の日々。その世界は唐突に傾斜し狭まって、太陽は熟れきって落ちた。いとしいひとの死にすら世間は悲しみを示さずに愛は無力で、肺に巣食った睡蓮だけがひたすらに美しかった。カクテルピアノで奏でる為に用意した曲は幸せを謳歌するものばかりで、灰色の葬式には不似合いで。街の本屋は燃やしたから音に乗せるに足ることばは絶えました。退廃の世にそれでも私は羨ましく思う。すべてを捧げるに足る愛を、意識がなくなるまで注がれたあなたのことを。花に囲まれ最期まで美しかったあなたを。
2020/01/08
buchipanda3
「大切なことは二つだけ。ほかのものは消えていい。なぜなら醜いから」。最近、現実と幻想の境目が朧気となる文学を読んだので、その酔いの勢いでヴィアンを手に取った。冒頭からグサッとくる。著者は詩人でもあるそうだが、その奔放自在な感性が滲み出る表現に刺激を受けた。一見、ポップで華やかな色調、しかしそこには人の享楽性や社会の傲然さの醜い色も重なり合う。"肺に睡蓮の花が咲く"という美しくも悲痛な描写に得も言われぬ儚さを感じた。など色々と頭に浮かんだが、そんなこと抜きでただ言葉に酔い痴れて楽しむ作品でもあるとも思えた。
2021/07/20
Willie the Wildcat
3組の夫婦・恋人たちがそれぞれの愛情を育み、苦闘の果てに見出す無力感。暗兪vs.明喩的な幻想が、コラン/クロエvs.シック/アリーズの苦闘姿勢。そしてこの差異が、クロエvs.シックの受動vs.能動的な”終焉”の根底。無力感、故の表題・”泡沫”と解釈。両極を見守り、そして支える二コラのぶつけようの無い苦悩は如何ばかりか。一方、『あとがき』で小川女史が語る「初々しさ」。う~ん、必ずしもそのような強い印象が、読後に残らない。主人公の影武者のような鼠の”生き様”の方が、生々しかった。
2020/07/18
藤月はな(灯れ松明の火)
印象は夜の街のウィンドーでオレンジ色の光に照らされた美しくて可愛い人形劇を観ているような感じでした。ところが物語が進むにつれて朝が近づいてきてあんなに綺羅々して魅力的だった人形劇のうらぶれた寂しさが余計に際立って無性に哀しくて、だからこそ、その思い出を大切にしたいと思えます。お金や時間が続く限り、美しくて楽しいことをしていたい。でもお金も時間も無限ではなく、命も人生も愛も移り変わっていく。苦しみを共有しても耐え切れなかったり、愛する人を破滅から守るはずが逆に孤独へと陥れる様は哀しい位に滑稽だが真摯で尊い。
2014/09/19
やきいも
つい最近、映画化もされた1947年発表のフランスの恋愛ものの古典。主人公の青年コランは美しいクロエと恋に落ち、結婚する。だが、クロエは肺の中に睡蓮が成長する奇妙な病気にかかる...。 徐々に弱っていくクロエに「滅びの美しさ」を感じました。クロエの治療費を何とかしてかせごうとするコランも健気です。ストーリーの面白さとかではなく、文章や情景の幻想的な美しさを味わう本だと思います。幻想的でファンタジーのように展開していく為、読む人によって好き嫌いがはっきりと分かれるかもしれません。
2015/02/09
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