ヒューマン・コメディ (古典新訳文庫)
ヒューマン・コメディ (古典新訳文庫) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
「この物語の続きを早く、読みたい!」という本は多々あるが「この物語をこのまま、ずっと、読み続けられればいいのに」という本は結構、少ない。私にとって、この本は後者だ。何故なら、時間があっても足りない位、日常に喜びと驚きと幸福感に満ちていた子供時代を思い出したから。ビッグ・クリスとユリシーズ君、図書館、強盗さんの話、ベス達と三人の兵士さんが映画に行った話、悪夢に魘されるホーマー君、ミスター・アラとその息子の会話による幸福論が好き。そして大人になる事や悲しみに向き合い、戸惑うホーマー君への大人たちの言葉が沁みる
2019/03/07
Willie the Wildcat
大義の下で垣間見る矛盾。現代も続く様々な格差や差別を考えると、単なる時勢の問題ではなく、人間社会の本質的な課題。主人公が日々直面する現実を通した悲哀が糧となり、大人に成長する過程。数名の例外を除いて、周囲の温かみも救い。人生の示唆に富み、主人公に物事を考えさせる会話に意義。一方、文脈から想像はつくが、結末は切な過ぎる。創造し、愛し合い/憎しみ合い、争うという循環。What goes around comes around. これが表題の背景かと推察。
2021/11/02
巨峰
人間的ではあっても日本語で言うコメディではない作品。 第二次世界大戦下のアメリカはカリフォルニアの小さな町イサカ。 父は亡く、戦争に兄を盗られた幼い兄弟の話。まだ小さな弟がいる14歳の次男ホーマーは放課後の電報配達のアルバイトで、家計を、母と姉を助ける。 が、戦時下の電報配達は、戦死の公報を、祖国で帰りを待つ家族へ(母や姉妹へ)届ける仕事でもあった。 サローヤンらしい優しい眼差しと、戦時下の厳しい現実が一つの小説に純化している。1943年に刊行された。
2017/09/05
えりか
なんて優しいのだろう。心があったまる。ここにでてくる人はみんな優しい。マコーリー家の人々、その次男ホーマーが通う学校の先生、彼が勤める電信局の局長や老電信士。もし悪いことをしたとしても、それはその人が悪いわけじゃない、その人に取りついているものが悪いのだ。人って、あったかい。戦地から届く家族の戦死の電報を届ける仕事を通じてホーマーは悲しみややるせなさを知っていく。深く悲しく辛い出来事の中でも、みんなで寄り添って優しく逞しく生きていく姿は眩しい。悲しみを経験して、人は人に優しくできるし、自分に強くいられる。
2017/08/23
おさむ
戦時中の普通の米国の田舎町の家族を描いたサローヤンの代表作。大人たちは戦争に行き、残された子どもたちは悲しみを抱えつつも、明るく生きる。ペーソスに溢れてなんだか心がじんわりと温まってくるような小説です。日本人にサローヤンが人気だったのがわかる気がしました。あの寺山修司さんもファンだったとは!アルメニアからの移民の子どもだったからこそ、弱者に優しく、金満を嫌い、家族を愛することを大切にしたんですね。米国の良心という意味では、映画「スミス都へ行く」を思い出しました。
2017/10/25
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