みずうみ/三色すみれ/人形使いのポーレ (光文社古典新訳文庫)
みずうみ/三色すみれ/人形使いのポーレ (光文社古典新訳文庫) / 感想・レビュー
サンタマリア
すごくよかった。沈黙を続ける過ぎ去った時間が想像の余地を与えてくれる。緻密に描かれた自然が空白の過去を際立たせる。『みずうみ』の主人公の気持ち、なんか分かるぞ。印象的な一文は『三色すみれ』より「屋敷の喜ばしげな未来が、過去の庭に入場したのだった。」『人形使いのポーレ』は出来過ぎなハッピーエンドだった。あんまり好きなタイプではないけどこれは好き。他と何が違うんだろう?
2021/12/09
aika
学生時代に心を奪われたシュトルムの物語に、新訳という″いま”の言葉によって再び命が吹き込まれ、こうして手に取ることできる喜びでいっぱいです。3篇の中で最も印象的なのは、旅芸人一座の活発な少女リーザイと、その人形劇に魅せられた少年パウルの物語『人形使いのポーレ』。時代は変わり、誰も見向きしなくても人形劇に魂を捧げたリーザイの父ヨーゼフや、周囲の偏見や屈辱にも決して挫けることのないパウルの強さは、物語に込められた悲しみと同じ分だけ胸に沁みました。シュトルムが愛した19世紀ドイツの市民の暮らしに親しめました。
2020/11/03
壱萬参仟縁
今日、ただ今日一日だけ あたしはこんなに美しい。明日は、ああ、明日は、すべてが過ぎ去ってしまう!(28頁)今を大事にしたいですな。おっさんは今、無収入の暇人だけど。死ぬときは、ああ、死ぬときは あたしはひとりぼっち(64頁)。あなただではないですな、みんなそうじゃな。老人の最後の一文が、「それから彼は椅子を机に引き寄せ、開いたままの本を一冊手に取ると、青春の日に精魂を傾けた研究の成果に、あらためてじっくりと目を通したのだった」(68頁)。それを読み終えてから死ぬならば、人生生きがいですわな。
2021/07/19
Kajitt22
ローマ時代には辺境の野蛮なゲルマン民族。あるいはワグナーの絢爛な音楽からは想像できないドイツ文学の繊細で喪失感の濃い短編。そういえばトーマス・マン、ヘルマン・ヘッセなどのみずみずしい作品を若い頃少し読んだのを思い出した。テオドル・シュトルム初読みでした。
2022/03/08
SIGERU
ドイツ・ロマン派から世界文学に入った者として、その流れを継承する恋愛小説『みずうみ』は、愛惜の名品。フーケ『ウンディーネ』やシュティフター『水晶』と共に、再読三読してなお瑞々しい。ラインハルトとエリーザベトの素朴な恋は、訥々として清潔。永遠の青春小説として読み継がれる所以だ。 現代の性急な読者は、此の古風な恋愛に隔靴掻痒感を覚えるかもしれない。愛しているなら、何故想いを伝えなかったのか、云々。正当な疑問だ。だが、此のもどかしさこそが、『みずうみ』という清澄きわまりない短篇が放つ輝きの源泉なのである。
2021/09/28
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