誰にも書ける一冊の本 (光文社文庫 お 37-5)
誰にも書ける一冊の本 (光文社文庫 お 37-5) / 感想・レビュー
KAZOO
語り手である作者の分身のような人物とその父親の書いた原稿がコラボして、父親との距離が徐々に縮まっていくような感じを与えてくれました。通夜の席で読んでいく様子がしんみりとした感じをよく表していると思いました。字も大きく紙の色も真っ白な感じで私のような年寄りにはありがたく感じました。
2018/07/21
いたろう
田舎の父親を看取る。その田舎が函館であることに、まず驚いた。函館に老親を残し、長男でありながら東京で働き、函館に帰る気は全くない。帰省も数年に一度。これは自分のことではないか。函館の父親の臨終に駆けつけるというのは、自分にも、決して遠くはないであろう未来に必ず訪れることと身につまされる。原稿用紙に残された「自伝」=誰にも書ける一冊の本で、主人公が初めて知る父親の過去。果たして、自分も父親の若い頃のことをどれだけ知っているというのか。等々、考えていたところで最後にやられた。ラストシーンで、涙腺が完全に崩壊。
2020/05/06
ふう
本にならなくても、人の一生は壮大な物語だと思います。祖父母や両親の命がけで生きてきた話を聞くたびに、そうやって生き延びてきた人々の命が次の時代に受け継がれていくのだと思いました。以前に戦争孤児だった方が、自分が孤児で惨めな生活をしていたことは子どもには知られたくないと話していました。でも、子どもはそうやって生き抜いてきた親の力強さを、自分の中に流れる力として受け止めるような気がしました。この本の最後、父親と関わった人々が葬儀に集まる場面でこみ上げてくるものがありました。物語はみんなの心に刻まれていると…。
2013/09/13
有
人は誰でも、一生に一冊は本を書けると言う。誰かに聞かせたい話があるわけではないが、自分のために、何かを書いてみたいとは思っている。一冊の本の感想にすら困り果てている現状からは、先の見えない夢だけれど。自分が書いたはずの感想でも、1度自分から出ていった言葉は、見知らぬ他人のような顔をしていることがある。思うように何かを表現することなんて、出来ないのかもしれない。なかなか人と親しい関係を築けないから、葬式にはきっと誰も来ない。ならば私は、ここから何を、成そうとするか。ストレートな言葉が、背中を押してくれた。
2014/01/06
オリーブ子
厚口の白い紙を使った、作りにも気を使った文庫本。フォント、Q数も普通の文庫と違うし、作中に出てくる「自費出版」のイメージかな? 編集者がんばったね、光文社エラい!と思ってしまう。息子が読み進める父の私小説、父の人生。特別ではなくても、誠実な、いい人生と、それを息子が共感していく過程。私は好き。ラストの告別式の朝、未完のラストまで、グッとくる良作でした。荻原浩は期待を裏切らないなぁ。
2015/04/29
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