ロスト・ケア (光文社文庫 は 36-1)
ロスト・ケア (光文社文庫 は 36-1) / 感想・レビュー
Tetchy
新人とは思えぬ堂々の書きっぷりで思わずのめり込んで読んでしまった。介護生活は今40代の私にとってかなり現実味を帯びた問題になっている。実際本書に全く同じ境遇の人物が出てきて私は大いに動揺した。そう、ここに書かれていることは物語の世界のことではなくもう目の前に起こりうることなのだ。日本の介護制度の想像を超える悪しき実態を知ってもらうためにもより多くの人に読んでもらいたい作品だ。日本は今自分で作ったシステムの狭間で悲鳴を挙げている。我々は人の命を重んじることで実はとんでもない過ちを犯しているのかもしれない。
2016/12/28
ミカママ
【KU】ひとり葉真中まつり最終章。読み友さんからも「いいよ」と脅かされていた(笑)とおり、期待を裏切らない内容だった。ほぼ最初からホワイダニットは明かされており、問題はフーダニット。この辺でちょっとどんでん返しがある他は、「高齢化」「家族内介護」そして「国による介護社会の改悪」などなどこれまた上手く世相を利用したミステリに仕上がっている。わたし自身も将来確実に通る世代、他人様のお世話になる前に、自分の命を始末できればどんなにいいか、と暗澹とした気持ちで読み終えた。
2024/06/15
hit4papa
連続殺人犯に対する死刑判決で幕を開ける本作品は、現代の介護の実情に踏み込んだ社会派ミステリです。ターゲットとなった四十人を超える被害者は、いずれも要介護老人。多くの人々が避けては通れない問題が読者に重くのしかかってくるでしょう。真犯人を追い詰める検事の正義という信念は、この物語の中ではとても奇異なもののように思えてきます。殺人犯の語る正義に心を揺さぶらざるを得ないのです。犯人当てとして意外性がありフーダニットとしてよくできているのですが、見るべきは破滅へと突き進む社会において何が正義かなのだと思います。
2017/03/12
ナルピーチ
その題材はとても深くて考えさせられる。誰しにもやがて訪れる“介護問題”を痛切に説いた内容に読後に自問自答するが、今の自分はその答えを出す事ができなかった。当事者でない限り知る事のない、介護をする側、受ける側の苦悩と葛藤。高齢化社会と言われる時代の中で、誰もが満足いくシステムなんて有りはしない。だからと言って、死んだ方がいい人間なんていない。なので本作に登場する犯人には同情はできない。改めて人命とは何か。その尊厳を重く受け止め、向き合っていく必要を感じた。
2021/11/13
イアン
★★★★★★★★★☆介護問題を扱った葉真中顕のデビュー作。43人を殺害したとして死刑を宣告された男。しかし男はその瞬間、不敵な笑みを浮かべていた…。稀代の殺人鬼である<彼>は一体何者なのか。そしてその真の目的とは?介護という現代社会が抱える闇に切り込む社会派としての鋭さと、読者を欺くミステリとしての意外性を併せ持つ本作は、新人作家によるものとは思えないほどの完成度を誇る。善悪の判断基準すら歪めてしまう壮絶な現実。43件の連続殺人という設定は突飛だが、実際にあってもおかしくないと思わせるリアリティに震えた。
2022/12/09
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