与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記 (光文社文庫 さ 35-1 光文社時代小説文庫)
与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記 (光文社文庫 さ 35-1 光文社時代小説文庫) / 感想・レビュー
しんごろ
東大寺の大仏を建立するにいたって、様々な人間ドラマがありました。炊屋〔かしきや:食堂〕の炊男〔かしきおとこ:料理人〕宮麻呂のミステリアスながらに知識の豊富さと頭の回転の速さ、妥協なき料理への姿勢。猪養の人望の暑さ。雄足の野心まる出しな言動、行動。小刀良の哀しみ。行基の仁徳のすごさ。鮠人、秦緒、乙足、南備…。そして真楯が人を通して成長していく姿に魅入られました。大仏の建立がメインでなく炊屋を舞台に、日常感たっぷりの物語はタイムスリップした錯覚に陥りました。腹は減っては戦ができぬを地で行く面白さでした。
2018/08/12
ぶち
奈良時代の東大寺大仏造営には、多くの人が徴用され厳しい労役に就かされています。そんな彼らを支えるのは炊屋で供される食事でした。タイトルにある"与楽"とは、"仏や菩薩が衆生を苦しみから救い、福楽を与えること"。まさに、炊屋での一椀が一時の安らぎと楽しみとなり、明日へと繋がる気力をももたらしてくれる"与楽の飯"なのです。大仏を造る苦役の意味は何か、仏とは何か、宗教とは何か、人間の生と死、幸福とは何かを問われる物語です。そんな大げさなものでなく、日々の食事をただ美味しく楽しめれば、それで幸福なのかもしれません。
2021/02/05
chantal(シャンタール)
聖武天皇発願の毘盧遮那仏建立のため徴発された真楯が配属された造仏所の炊屋は飯が美味いと評判だ。炊男の宮麻呂は真楯ら仕丁達が安全に作業出来るよういつも心配りしてくれる。造仏所で色んな騒動が巻き起こり、それを共に解決しながら皆が炊屋を中心に結ばれて行く。彼らには仏を敬う気持ちなんて特にない。仕事は辛いし、故郷にも早く帰りたい。でも自らの身を削って何百年、何千年後かに多くの人が礼拝するこの仏の一部になっているのだと宮麻呂は言う。正に昨年末、大仏様を拝んだ後、奈良の駅ビルでこの本を購入した。古の人々に感謝🙏
2020/02/25
papako
台風のために、ぽっかり空いた時間の読書。うーん、なんか沁みた!難しい言葉が多くて読みづらいし、どこがどうって言えないのですが、よかった。奈良の大仏建立に全国から集められた男たち。そんな彼らをご飯で支える男、宮麻呂。彼らが大仏を作りながら、まつわる謎を解いていく。そして悲しい因果がめぐる。それでも人は皆、仏。仏のためによりも、目の前で生きて働く男たちに飯を!登場人物たちの心意気に熱くなりました。奈良の大仏、見に行こうかしら。しかし『与楽』って名前だと思ってた。
2018/09/04
ケロリーヌ@ベルばら同盟
相棒の素敵レヴューに惹かれて。東大寺大仏造営のため、地方から懲役された仕丁らに焦点を当てた連作集。万物を遍く照らす毘盧遮那仏。春日野山裾に展開するその威容。造仏に携わる人々、天皇も役人も、大聖の行基上人すらもひたすら人間臭く描かれ、遥か昔の寧楽の時代に親近感を覚える。中でも辛い労働に明け暮れる仕丁たちの命の糧を拵える、炊男の宮麻呂の料理の手腕と、雑多な人間の坩堝で起こる日々の謎を解く洞察力に心酔。彼の抱える闇にもまた。ひたすら任期を終え、無事に故郷に帰る事だけを願う仕丁、真楯に芽生えた仏を思う心。請続編。
2020/03/29
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