与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記
与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記 / 感想・レビュー
いつでも母さん
初めて奈良の大仏を見たのは修学旅行だった。この作品で建造について思いを馳せるにあたり、教育の一環としてこの本を読ませるが良いと思った。生きてる限り人は食べる!風雨の時も額に汗して身を粉にする名も無き者達がこの大仏を造ったんだ!それを食事で支えた宮麻呂が凄い。読後感も良い。けれど私の心には信仰とは別の思いもあって・・なにもこんな大きな仏像じゃなくたっていいのにと、だから真楯の「俺たちにとっての仏はあのでかい大仏じゃない。炊屋で飯を食わせてくれる宮麻呂です」この言葉が突き刺さるのだった。
2017/02/24
文庫フリーク@灯れ松明の火
サブタイトルの「東大寺造仏所炊屋私記」通り、およそ1270年前の奈良時代、聖武天皇の願いで始められた国家鎮護のための造東大寺。伽藍を建てる木工所、寺で用いる経典を写す写経所など「所」と呼ばれる無数の部署筆頭は、廬舎那仏像(大仏)を鋳る造仏所。諸国から召集された仕丁(作業員)たち含め、造仏に携わる人々の食事を賄う炊屋(かしきや)で、口は悪いが美味い飯作りに腕を揮う宮麻呂。タイトルは仏や菩薩が衆生の苦しみを抜いて福楽を与える【抜苦与楽】からか。「仏や神がいったい何をしてくれる。人を助け、人を食わせる者は→続
2015/11/22
藤枝梅安
東大寺大仏建立に関しては、帚木先生の「国銅」が最も印象的だった。「与楽の飯」は大仏の仕事場で働く、地方から徴用されてきた人々を描く。近江から派遣された仕丁の真楯が語りだが、主人公はの炊場(食堂)を取り仕切る、宮麻呂と考えてよかろう。働く人々に美味い飯を食わせることだけが自分の仕事であり生きがいだと考えている宮麻呂の作る食事の描写とともに、作事場のいざこざや、分担ごとの驕りや嫉みが入り乱れる現場の様子を描く。宮麻呂の過去が次第に明らかになっていく過程がミステリー仕立て。職人の世界を見事に描いている。秀作。
2015/10/24
あすなろ
盧舎那仏建立。自分達を激しい労役に駆り立てる。そんな暗がりの中、一つポツンと灯る造仏所炊屋を主にした物語。どうしても、帚木氏の国銅と比較してしまう。その外伝的としたら澤田氏に失礼か。食に心満ちるのは古今問わず同じ。また個人的には、行基や英際が描かれているのが興味深い。但し、少し盛り込み過ぎ?登場人物も出来事も。もう少し削いでと思い、主人公の心理描写を増やして読者が感情移入させて欲しいと思う。でも、良きテーマでストーリー。労苦に耐えた者達が大仏建立で救われないと思っていたとするのは、当時忍び納得出来る解釈。
2015/10/20
Rin
東大寺の大きな大仏。あの時代に造ることの大変さ。あの時代を生きた人たちの汗や苦労に無くなった命。大仏を作るために呼ばれた人々。苦しい生活のなかでの食、という楽しみ。暖かな食事、食べる人たちを想って作られた食事。その存在の大きさを教えてくれたのは宮麻呂だった。後年に残る大仏は確かに誰かの心の支えになったり、造る人たちの心にも残るはず。でも今を生きる人たちが目の前にいる。目の前で生きる人こそ、その命こそが尊い。そのために必死な宮麻呂。彼が心の裡に秘めたこと、過去はあった。でも宮麻呂の行いもまた尊かったです。
2018/04/29
感想・レビューをもっと見る