聖餐城
聖餐城 / 感想・レビュー
優希
面白かったです。17世紀のドイツが生々しく描かれており、三十年戦争という歴史的な出来事が幻想の世界へ昇華されていました。戦火の下で荒廃していく町々や傭兵たちの様子は凄まじいものがありました。世界史は争いの繰り返しでしたが、その世界をも美しく感じさせてしまう物語の力というものを感じずにはいられません。架空と実在が混在した思惑と歴史が絡み合う濃密さに酔いました。
2017/09/19
文庫フリーク@灯れ松明の火
馬の胎(はら)から生まれた少年アディ。戦場で巡り合ったのは皇帝に財務をもって仕えるユダヤ一族のイシュア。出来損ないのホムンクルス扱いされる美しき劣等体、イシュアは冷徹な頭脳で・傭兵隊へ入隊したアディは騎兵としてドイツ30年戦争(1618〜1648)を生きる。謎の聖餐城に有るという、政治的問いに正確な指針示す《青銅の首》予想した幻想文学ではなく、二人を中心に据えた硬質な戦争小説の感。カトリック対プロテスタントの宗教戦争でありながら、実際は各国間のパワーゲーム。そしてユダヤの民には生存賭けたマネーゲーム。
2012/04/12
*maru*
皆川さん28冊目。17世紀ドイツ。プロテスタントの反乱をきっかけに、ヨーロッパ中を巻き込む国際戦争へ発展した三十年戦争。そんな戦乱の時代に出逢った馬の胎から産まれたアディと宮廷ユダヤ人の息子イシュア、イシュアの兄シムション。処々に飛び火する戦火を潜り抜け戦場を懸命に駆けた男達。理不尽な裁きや己の欲望、血の匂いや謀略に蹂躙されながらも決して立ち止まらなかった彼等の半生は、美と妖と怪に満ちていた。聖餐城に眠る青銅の首は、後世に何を伝えるのか。長きに亘る彼等の戦いは、平和を讃える鐘の音とともに静かに幕を閉じた。
2019/01/02
藤月はな(灯れ松明の火)
史実を擬えた戦争小説。「自分たちが信仰する神のためだ」と大義名分を掲げようともそこには人間の経済や政治での自己利益を求める動機が根底にある。戦争が決してなくならないのは人間が欲深いためだろう。ユダヤ人と家を慮って地位を獲得しようと画策するシムション、自分の真実を知った上で憎悪を抱きつつも戦況を冷静に見守るイシュア、1人の女の幻想を抱き続け、かりそめの希望を持たせる偽善性を持ち合わせるアディなどこの小説に描かれた人々は人間が誰しも持っている性質を時には尊厳を時には嫌悪を抱かせながらも容赦なく、描いている。
2011/07/06
えも
17世紀ヨーロッパの戦乱を駆け抜けるように愚直に生きる主人公アディ。聖餐城と青銅の首の謎に翻弄されつつも戦争で利益を得るユダヤ人。娼婦、刑吏、薔薇十字、カバラ、ホムンクルスと、皆川節が炸裂です。「死の泉」よりエンタメ性があって、時間はかかりましたが、大部なのに退屈しませんでした。
2015/10/19
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