城を噛ませた男
城を噛ませた男 / 感想・レビュー
藤枝梅安
2010年1月から11年2月まで「小説宝石」に断続的に掲載された5編をまとめた1冊。5編とも、大名に挟まれた地方豪族の、裏切り、どんでん返し、なりすましなど、なりふり構わぬ生き残りをかけた権謀術数を、細かく解説・描写した歴史エンターテインメント。「見えすぎた物見」は下野の佐野家の物語。「アララ、そうなっちゃうんだ」という結末。伊豆・雲見の高橋丹波を描いた「鯨のくる城」が痛快で爽やかな読後感。「椿の咲く寺」は後味が悪かった。神奈川出身の筆者は小田原北条家を中心とした物語を多く書いている。(コメントに続く)
2012/11/10
ナイスネイチャ
伊東さん2作目。珍しい関東武将にスポットを当てた短編集。どれも日の目が当たらなかった武将に人間味たっぷり含んだ作品。勉強になります。ただ真田昌幸がこんなに老獪だったとはショックでした。
2014/04/05
Book & Travel
初の伊東潤作品。戦国末期の関東地方、北条・上杉・武田・徳川といった大勢力の間で立ち回る国衆など小勢力を描いた短編集。一歩誤ればいつ滅ぼされてもおかしくない中で必死で先を読み、なりふり構わず生き残ろうとする小勢力の苦しさ、厳しさがどの作品からも伝わってくる。ややマイナーな武将の話が丁寧に絡めてあるのは楽しめ、特に主家の佐野氏を残そうと北条と上杉の間で立ち回る天徳寺宝衍を描いた「見えすぎた物見」は良かった。ただ真田昌幸が主役の表題作は期待し過ぎたせいか、策謀が狡猾すぎて、もうひとつ感情移入できなかった。
2016/04/18
さつき
お気に入りさんの感想から興味を持って読みました。戦国時代を描いた5編の短編集。どの作品も生き残りをかけてギリギリの選択を強いられる人々の姿が印象的です。あまり有名ではない小領主が主役となっているものばかりで、新しい切り口で描かれているようで新鮮に感じました。伝統的な捕鯨の様子がうかがえた『鯨のくる城』は鯨魚取りと蔑まれながらも、機会をとらえ自分にできる反撃をする高橋丹波の姿がひたすらかっこいいです。表題作は真田昌幸の策謀ぶりが凄まじいです。ここまで悪辣でないと生き残れない時代だったのでしょうね。
2016/05/09
onasu
「王になろうとした男」が直木賞候補に挙げられたからでもないが、著者の作品は短編の方がより魅力的かもしれない。 越後から相州からと軍勢が向けられる下野佐野、それをいち早く見つけ、城門前で土下座をして赦しを乞う…、という初編。 西国勢の船に囲まれた豆州下田、手立ても尽きた中、鯨取りと見下されていた伊豆南西部雲見の領主が、敵に一泡吹かせ、悠々と在所に戻るという2編目。 表題作もいいが、歴史に埋もれた話しの方が楽しみだ。窮地にあっても、大勢を見極め、欲をかかない。現代にも通じる、生き延びる術か。
2014/01/23
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