死の同心円 (バベルの図書館)
死の同心円 (バベルの図書館) / 感想・レビュー
内島菫
死に直面した人々、あるいは死に追いつかれ、また追い越そうとした人々の話。私は「恥っかき」を最も目の覚める思いで読んだが、自ら進んで命を絶つことがテロであることを、キリストとはまた違ったケースとしてまざまざと見せつけられた気分になった。自然の驚異が人々を一掃すべくごみのようにしてしまうのも一種のテロだろう、ということを「マプヒの家」で感じた。当時の一般的なヨーロッパ人の見方で、著者は非ヨーロッパの人々を野蛮人と表記しつつ、「死の同心円」や「影と光」ではヨーロッパ人たちを負けず劣らず野蛮人として描いている。
2018/06/15
藤月はな(灯れ松明の火)
「マプイの家」でのマプイの要求が正当であったことが後に発覚する過程と主人公が成り替わる様は圧巻です。「恥っかき」も落差が凄まじいが徐々に追い詰められていく資本主義における個人の恐怖と屈服するしか逃げ道はなかった恐ろしさを描いた表題作も強烈です。「影と光」はウェルズの「透明人間」を連想させるようなグロテスクさと可笑しみがあります。
2012/11/30
ふみふみ
ジャック・ロンドンというとなんとなく動物小説の印象が強かったのですが、多彩な題材を扱う短編の名手だったんですね。労働者階級を名乗る集団の脅迫と無差別殺人を語る陰惨な表題作「死の同心円」、ポーの「ウィリアム・ウィルスン」ネタとSFアイデアを合体させたような「影と光」、他アラスカ部族物など全五編でどれも語り、引き込む巧さを感じました。
2022/11/30
きりぱい
序文で「結末近くなってやっと読者はほんとうの主役の正体に気付くことになる」と書かれた「マプヒの家」。気負って読んだものの別に騙しとかいうのではなく、ハリケーンの描写に最初の話が飛んでいて、あら、そういえばいつの間に、という感じ。拷問を避けるため待ったなしの策を講じる「恥っかき」が鮮烈だけれど、屈服する以外に逃れる方法はないのかの「死の同心円」も怖い。「影と光」は、生き写しの友人たちが度を越して張り合い、超科学的な対決に至る不幸な結末なのだけど、究極の黒は見えないという説にしばし考え込んでしまった。
2012/06/18
空虚
バタバタと命を落としてゆく人々、だからなんだというのだろう?ジャック・ロンドンは、決して騒ぎ立てることなく、自然の中のありふれた生とありふれた死を、静かな筆致で書き留める。「バベルの図書館」にふさわしい作品群は、そのどれもが終始緊張感が持続する物語りであり、ボルヘスが書くように、読み物としても面白い。とりわけ初読の『マプヒの家』、『恥っかき』が素晴らしかった。
2016/01/11
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