アーサー・サヴィル卿の犯罪 (バベルの図書館 6)
アーサー・サヴィル卿の犯罪 (バベルの図書館 6) / 感想・レビュー
内島菫
五編とも、誰かの死との引き換えが、しかし釣り合いや因果を無視した引き換えが行われる。「アーサー・サヴィル卿の犯罪」では、預言者のような占い師がアーサー・サヴィル卿の幸せな結婚のために殺される。「カンタヴィルの幽霊」では、何百年も居座っていた幽霊が「死ぬ」ことによりアメリカ公使の家族と物神論的和解を果たす。「幸せの王子」「ナイチンゲールと薔薇」「わがままな大男」では、命を落とした者と生き続ける者との間にどれほどの関係があっても、死はほとんど皮肉と同様それらを何もなかったかのように流し去るという救いを与える。
2018/06/19
藤月はな(灯れ松明の火)
表題作は手相術師の言葉がきっかけで愛する人のために悩み、遂に殺人を決意するがまるで神の加護に守られているかのように自然死や自殺として片づけられるアーサー卿の最後の晴れ晴れとした様子が印象的な話。「巫女の死」にも通じるような伝える側の無責任さの報いと最後には守られるという不条理が好きです。ウィンダミア夫人はあの「ウィンダミア夫人の扇」に登場したウィンダミア夫人かしら?「カンタヴィルの幽霊」は英語の授業で読んでいたのですが現実的な家族と幽霊の攻防戦にクスリとしつつ、ヴァージニアの赦しによって救われるのは圧巻
2012/12/01
みつ
ボルヘス編「バベルの図書館」の6冊目。「アーサー・サヴィル卿の犯罪」は占いが伝えた自らの運命に忠実たらんとする若者の試行錯誤を描く。乱歩いうところの「奇妙な味」の倒叙推理小説のようにも読める。「カンタヴィルの幽霊」は、幽霊が出るというイギリスの古い屋敷を買い取ったアメリカ人家族と幽霊の話。怖いというよりは、ほとんどコメディ・タッチで物語が進行し、所々では幽霊に同情したくなる。心優しい娘との出会いがもたらす結末は、これもひとつの救済か。童話3編は善意が主題であるが、結びで索漠とした気分にさせられるのも事実。
2021/04/10
ふみふみ
悲喜劇なのかアイロニーなのかなんとも形容し難い表題作に幽霊喜劇「カンタヴィルの幽霊」、おとぎ話でセンチメンタルな気分にさせる「幸せの王子」「わがままな大男」と皮肉の効いた「ナイチンゲールと薔薇」の全五編。おとぎ話は子供の頃より大人になってからの方がより感傷的になれますね。
2022/12/03
コニコ@共楽
いかにもオスカー・ワイルドらしいアイロニーの効いた短編集。そして、もちろんこのシリーズお決まりのボルヘスの序文もアイロニーが効いている。「ワイルドのメッセージ、彼の無敵の幸福が、われわれの記憶の中に、ちょうどあのデンマークの王子のような悲劇のダンティーとしての彼の姿を、消えることなく刻印しているのである」という文が心に残る。「カンタヴィルの幽霊」が幽霊の視点からの幽霊物語で楽しい。
2013/01/31
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