ロシア短篇集 (バベルの図書館 16)
ロシア短篇集 (バベルの図書館 16) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
ドストエフスキー、アンドレーエフ、トルストイの短篇を収録。ドストエフスキーとトルストイは大長編作家のイメージだが、短篇も優れている上にそれぞれの特徴も顕著に出ている。アンドレーエフは初読で馴染みも薄いが、明治・大正期には文壇人士の間で結構人気があったようだ。篇中で最も詩的な趣きを持つのはドストエフスキーの「鰐」、そして最も散文的なのが(悪い意味ではなく)トルストイの「イヴァン・イリイチの死」だろう。「鰐」はかなり奇妙な作品。未完らしいが、これでもいいような。文字通り「人を喰った」ような小説である。
2021/07/14
内島菫
ドストエフスキーの「鰐」、アンドレーエフの「ラザロ」、トルストイの「イヴァン・イリイチの死」の三篇が収められている。三篇ともそれぞれに角度の異なった生と死―どちらかというと生への執着心の恐ろしさ―を描いており、三者三様に楽しめた。「鰐」は未完だがなかなか意味ありげないいところで切れていて書かずもがなという趣すらあり、カフカの「アメリカ」の切れ具合に通じるものを覚えた。そのタイトルにもかかわらず、鰐がイワン・マトヴェイチを呑みこんでしまってから、作品から鰐が消えてしまったように感じられた。
2018/07/26
藤月はな(灯れ松明の火)
鰐に喰われてしまった男を心配する友人に対し、鰐に喰われた夫と暮らすのが嫌で離婚すると言い、「それは神への誓いに反することだ」と友人が言うと逆切れする妻や鰐に喰われた夫よりも革製品として利用される鰐の価値を気にする大衆などの人間への尊厳は個人の幸せ大衆の関心には無意味であることを描いたドストエフスキーの「鰐」。神に一生、仕えることが定まった無限を象徴する身であるが、それが人々に幸福を奪い、無常観を与え、忌避される存在にもなってしまった「ラザロ」。死は全ての無常であり、死すらも無である「イヴァン・イリイチの死
2012/12/07
みつ
『バベルの図書館』のこの巻では、大長篇で知られるロシアの二大文豪の作が中心。ドストエフスキーの『鰐』は、文字通り「人を食った話」(ネタバレになりませんように)。あり得ない状況のもとで友人を救おうとあたふたする男と、それを阻止しようとする鰐の所有者たる興行主。妻や上司さらには「本人」のこの状況を前にして冷静な様が滑稽にして不気味。ゴーゴリの影響も感じる。アンドレーエフの『ラザロ』は、復活した者が祝福されない世界。トルストイの『イワン・イリイチの死』(再読)は、透徹したリアリズムで「死」そのものと向き合う。
2022/05/03
em
挟まっていた月報より、ドストエフスキーやトルストイが愛唱してやまなかったという詩人チュッチェフの詩。「ロシアは頭だけでは理解できない 並みの尺度では計れない ロシアだけの特別の体軀があるから ロシアは信ずるしかない。」今後肝に銘じます。
2017/06/18
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