佐藤春夫 海辺の望楼にて (日本幻想文学集成)
佐藤春夫 海辺の望楼にて (日本幻想文学集成) / 感想・レビュー
ハチアカデミー
何といっても代表作「美しき町」が白眉なのだが、「指紋」「奇妙な小話」といった自己分裂物、タルホの師であることを納得させられる「形影問答」「魔のもの」などなど春夫の多様性を味わうことのできるアンソロジーである。この捕らえ所のなさこそ最大の魅力。かつて春夫の時代があったのだ。だがしかし、大正の終わりと芥川の死とによって姿を潜めていく。まだまだ全貌が見えない作家だが、いまでも存分に楽しめる。『田園の憂鬱』で見切ったつもりの読書家には是非手にとって欲しい一冊。春夫の死後50年がたったのだから、もろもろ文庫化希望。
2014/01/28
hgstrm2
銀の洪水をもたらす明鏡のような満月の夜に繰り広げられる、狂気寸前の幻想的な世界は、神経衰弱の芸術家或いはアヘン吸引者の幻か。それは超現実的美しさを湛えてはいるものの、救いもなければ奈落もなく、その骨格も脆弱に過ぎ、ただの夢の描写のようなもの。これは散文詩だからと言われたらそれまでだが、物足りない感は否めず、例えば鏡花や谷崎には遠く及ばず。耽美とか幻想というのは、ただ美しければいいのとは違う、ということを再認識。とはいえ例えば「奇妙な話」などは、ホフマンの「砂男」的緊迫感漲る戦慄すべき傑作と思われた。
2016/06/23
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