アラビアン・ナイトメア (文学の冒険シリーズ)
アラビアン・ナイトメア (文学の冒険シリーズ) / 感想・レビュー
ケロリーヌ@ベルばら同盟
15世紀末、マムルーク朝スルタン・カイートベイの治世に黄昏が忍び寄るカイロ。野心家の若き英国人が陥るアラビアの夢の病。ねっとりと暑い、香料と汚穢と雑音に充たされた小さな箱に閉じ込められ、あちらこちらに転がされ、揉みくちゃにされるような悪夢から、やっと目覚めれば、それはまた新たなる夢の入り口。入れ子の夢。千夜に亘って語られる法螺と魔法の物語。語り部の正体は?夢見ているのは自分か、それとも誰かの夢に囚われているのか?混沌の物語を細密な装画が 彩る。中世アラブ史の碩学である著者の豊かな知見の上に咲く奇想の徒花。
2021/09/09
三柴ゆよし
夢は終わらぬ夢を孕み、物語は無限の入れ子構造をなす。最凶の悪夢小説、ここにあり。物語の要約はほぼ不可能、それを語る者の存在すら定かでなく、頁を越えて、私たち読者が安閑と享受することを許された虚構(または夢)の約束事まで破壊し尽くしてしまう。アラビアの夜の悪夢と怪しげな語り部によって織り成される奇怪な物語に誘われ、読者は一体どこへ連れ去られるのか。最終頁まで行き着いても、正直よくわからない。脳味噌を直接鷲掴みにされるような迫力と酩酊感を味合わせてくれる、虚構のなかの虚構というべき、空恐ろしい小説であった。
2013/07/03
Kouro-hou
中世アラブ研究者である著者の作家デビュー作。1400年代末期のマムルーク朝のカイロを舞台に陰謀と悪夢の多重構造の物語が展開される、というか細かいあらすじは書けないw話でもある。一応バリアンという英国人の中心人物はいるものの、現実なのか彼の悪夢なのかの境目はわざと混乱させるようになっており、全部悪夢でいいよ的にいい加減に読みました。すみません。バリアン嫌いと堂々と言う仕掛けありな語り手が人を食ってて良いw 風俗描写が細かくて興味深く、当時のカイロが描かれた挿絵もエキゾチックで素敵。
2016/05/05
凛
入れ子の迷宮。話の中の話の中の…と続きながら数個前の話に戻って補足する。その補足話の中の話の中の…と行ったり来たりして何を読んでるのかだんだん朦朧としてくる。かと言って完全に破綻してる訳ではなく時々繋がってる部分が出てくるが正確にどことどこが繋がってるかさっぱり判らない。時々整合性を取ることでより複雑さに拍車がかかる。読者にとっては一体いつが始まりで終わりなのか判らない永遠に続きそうな奇妙な読書体験が悪夢となるだろう。舞台となる15世紀カイロの挿絵がリアリティと味があって素敵。乾いた風の中で夢を見よう。
2014/06/10
ネムル
アラビアの悪夢に罹患したら、夢につぐ夢を見て、そこから覚めると鼻や口から血反吐を撒き散らし倒れ、それでなお夢の入れ子が終わったかどうかわからない。という、虚構まみれ罰ゲームを読み進めるうちに本当に風邪気味になるという、もう一つおまけの虚構まで貰ってしまった。終盤のサラゴサ・オマージュぽいところから、少し体調を持ち直したが、随分シンドい正月を過ごしたことは忘れないよ。不穏な年明け……。
2016/01/02
感想・レビューをもっと見る