透明な対象
透明な対象 / 感想・レビュー
優希
歪みと謎に満ちた物語を深く読み込んでいくと、その背景の美しさが浮き彫りになっていくようでした。その何かを見つめたくてたまらないのに、透明に透けていて見えないような曖昧さがあるような気がします。それは感情が過ぎ行く時間が瞬間的であるからのように思いました。消えゆくような想いによって迷いと探索の中に漂うような感覚に陥ります。
2017/05/08
Tonex
再読。語り手「私」とは誰なのか?「我々」とは何なのか? 自分で謎解きするのは早々にあきらめ、ネットで解説を探してざっと目を通した。「ええっ!そういう話だったのか!?」という驚きとともに再読。1回目はさっぱり何のことやらわからなかった部分の意味がわかって鳥肌がたった。▼それでも意味不明な部分は多い。3回読んだらもっとよく理解できるに違いないし、いろいろ関連項目を調べたり、原文と照らし合わせたりしていたら、おそらくこの本だけで半月くらい遊べるだろうが、こればかり読んでるわけにもいかないので、次の本に行く。
2016/06/11
Tonex
さえない編集者がスイスのホテルで人生を振り返る話。長さとしては中篇小説なのでナボコフの作品としてはとっつきやすい部類だと思う。▼新潮文庫版『ロリータ』の翻訳でナボコフマニアぶりを発揮した若島正による読みやすい翻訳。しかし、読みやすいことと、内容が理解できることとは別。例えば、この小説における謎めいた語り手「私」とはいったい誰か、「我々」とはいったい何者たちを指しているのか、という問題。訳者あとがきには、「語り手の正体は、決定的には最終の一行で明かされる」とあるが、さっぱりわからない。
2016/06/10
Yusuke Oga
ナボコフが召されるちょっと前にスイスのホテルでしたためた、解説いわく、冥界から読者へ向けて「君、君」と語りかけてくれるような最後の贈り物というべき極上の名編・・・・といえば、なんだかわかったような気がするが、なんだかわからないのだ、困ったことに。小説は、空間やら時間やら人々の心理やらという対象を移動して、それらを思いのままに覗いてしまう「神の視点」という越権行為を、芝居などとは違い自由に駆使できるかっこうの場なのだけれど、複雑なできごとを明らかにする目的で発明された(?)やり方が、みごとに放棄されている。
2014/10/03
chanvesa
むかし新聞の読書欄で、フロイトによるテニスの分析の本の記事を読んだような気がする。そのせいかテニスの場面が、夢の話、アルマンドとヒューの関係などとセクシャルな連関が見えてきそうだが、自信はない。解説にあるヴィトゲンシュタインとのつながりは「我々がやらないことになっているもうひとつは、説明不可能なものを説明することだ。」(145頁)が、例の「沈黙」に通ずるようだが、その後の「現実が持つ夢のような本質」(146頁)なんて、そうだと思った瞬間実はナボコフがシニカルにこちらを見ているのでは、と疑心暗鬼になる。
2018/06/02
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