歪み真珠
歪み真珠 / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
再読。日常の中で真珠のように密やかで贅沢な時間を頂きました。御伽噺達は忙しなくなりがちな心を慰撫し、自分だけにある時間と想像の海の中で酔わせる。「娼婦たち、人魚でいっぱいの海」の晴れやかなラストは絵に描き起こしたいほど、麗しい。「聖アントワーヌの憂鬱」の何でもなかった当事者の対しての周囲の煩悩による不信には苦笑してしまう。後、『エクソシスト』要素も入っていて思わず、笑っちゃいました。そして「夜の宮殿」シリーズは、現実に干渉できない分、強烈な存在を放つ女王と漣のようなかつていた者達の語りの響きに心は揺蕩う。
2020/06/19
市太郎
美しい装丁にうっとりとして、寝る前の一時間くらいを山尾時間としてのんびり読んでいたのですが我慢出来なくなって一気に読了。破いたり汚したりしてはならないと、緊張感を持って読みました。難解なというかストーリーとかに意味があるのかないのかわからないが、この人の作品はやっぱり名画を眺めるようなものなんだろうな。言葉で絵を描くってすごい。素晴らしいの一言です。
2014/06/03
文庫フリーク@灯れ松明の火
『ラピスラズリ』の落穂拾いと著者が仰る「ドロテアの首と銀の皿」が印象に残った。理解したとは言い難いが『ラピスラズリ』の分、楽しめた気がする。「影盗みの話」もそうだが、ある程度の長さ有るほうが私には捉え易いようだ。イメージや像が浮かぶ側から、次々と流されて行く不思議な感覚の短編集。これは手持ち本なので繰り返しじっくり読んで行きたい。
2011/07/04
あき
★★★★☆ 『ドロテアの首と銀の皿』『美神の通過』『娼婦たち、人魚でいっぱいの海』『向日性について』が特に好きです。各話のタイトルを見ただけで、幻想の世界に足を踏み入れたかのようにくらくらします。荒野を通過する台座つきの美神。日陰に入ると眠ってしまう人々。残飯に群がる人魚。シュール。滑稽。醜い。なのに恐ろしく美しい。私には、神話のようにも思えました。冬眠者の物語である『ドロテア〜』は大好きなサロメを彷彿とさせます。装丁がとても美しく、読む前には身を整え大切に大切にページをめくりました。
2017/10/06
tomo*tin
おそらくみんな少しずつ何かが欠けている。それを埋めるかのようにして、映る部分だけが静かに語られてゆく。そこに過度な装飾は無い。通り過ぎるものを在るものとして映してゆくにすぎないのだと思う。いつでも片側からだけ覗いた世界は歪んで見える。けれど私はその歪みにこそ心奪われるので、表も裏も境界も、無粋で瑣末なものに思えてしまう。在るものを光に透かして無いものを見るような十五の真珠たち。素敵に冷えた世界でした。
2010/03/01
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