ディンマスの子供たち (ウィリアム・トレヴァー・コレクション)
ディンマスの子供たち (ウィリアム・トレヴァー・コレクション) / 感想・レビュー
NAO
イングランド・ドーセットの架空の海辺の町ディンマスが舞台。復活祭前の町は活気に溢れているが、心の中に影を潜める人々もいる。父親が出て行き母親からも姉からも相手にされない孤独なティモシーは、他人の生活を覗き見ることでしか他者との繋がりを持てないため、他人が困っていようが嫌がっていようがおかまいなしでずけずけと家の中にも心の中にも入り込み、心に影を潜める相手が動揺する言葉を放つ。ティモシーの言動は本当に不快でしかないが、一方で、彼のこの性格が環境によるものだとしたらと考えると、なんともいえない気分になる。
2023/08/10
天の川
片田舎の海辺の町に暮らす人々。ティモシー=ゲッジ少年は、自らの隠し芸大会での演目を成就させるために、住人に馴れ馴れしく付きまとい、彼らの秘密を次々に暴く。嫌悪されても頓着しないゲッジの言葉の大半が彼の妄想にも拘らず、一かけらの真実に住民たちは不安になり、彼の要求に屈服していくのだ。読んでいる私も不快で不安で息を詰めてしまう。ゲッジは隠し芸大会出場を諦めるが、彼の行状がこれからも変わることはないだろう。牧師館の妻の「未来が残されている限り、希望を失ってはならない」との思いが救いか。不穏さがたまらない作品だ。
2023/05/27
ヘラジカ
流石は名匠トレヴァー、初期の作品とは言え端正で読み応えのある逸品だ。しかし、読後はなんとも言えない灰色の感情が渦巻く。すっきりしない。無論、それこそが作者が描きたかったものなのだろう。答えの見出せないモヤモヤの中に取り残された感覚だ。人間の醜怪さを曝け出したようでもあり、逆に善性とは何かを明かしたようでもある。簡単に言えば人間の”業”を書いたということか。受け取り方は読者それぞれかもしれない。とても分かり易く、滞りなく一気に読ませる物語なのに、読んでいる間は頻繁に心の天秤が揺れ動くような作品だった。
2023/04/03
星落秋風五丈原
イングランド・ドーセットの海辺の町ディンマス。復活祭を前に人々の生活は活気づく。信者が減り続けて教会の修繕費用も捻出できず運営に悩む若い牧師夫婦区ウェンティンとラヴィニア・フェザーストーン。まだ寒いのに、海水パンツ一丁で海岸を徘徊する退役軍人ゴードン・アビゲイル大佐とその妻イーディス。息子ネヴィルに家出されたダス夫妻。互いの親が再婚して同居するようになったスティーヴンとケイト。タレント発掘番組に出演することを夢見る孤独な少年ティモシー。彼は悪魔的な言動で平和な生活の裏に潜む欲望・願望・夢を暴き出していく。
2023/05/12
M H
海辺の町ディンマス。復活祭に向けて忙しくはなってもごく普通の暮らしを送る住民。そこに闖入、悪魔的な言動で揺さぶりをかけるのが不気味な少年ティモシー。暴き出される真実めいたもの、欲望は心をざらつかせ、ティモシーの絶妙に癇に障るおしゃべり、間のとり方が不穏さを倍加させる。彼の視点は少ないながらも他人を見下し、良心を欠いていることが窺えて現在ならどう描かれるかとこちらも興味深い。終幕近くの答えのない問いまで緩むことなく堪能できたが、辛辣で苦味が強いので、トレヴァーをこれから読むなら短編がオススメ。
2023/04/25
感想・レビューをもっと見る