新編・日本幻想文学集成 第1巻
新編・日本幻想文学集成 第1巻 / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
図書館でこの豪華な本を見つけた時の喜びは忘れまい。ラインナップや解説陣も幻想小説ファンには垂涎モノ。安部公房は長編数冊しか読んでいなかったが、詳しくも何所か地に足ついていないような生活描写の中で実存性を問う作品が特色なのだと気づく。「鉛の卵」が好き。『チチンデラ ヤパラ』を読んで再び、『砂の女』を読みたいと思ったし、『トラウマ映画館』でも紹介されていたカイヤット監督の『眼には眼を』が随筆「砂漠の思想」にも紹介されていて吃驚。中井英夫は大好きなトランプ奇譚作品が多いが他の作品も少年愛絡みでニヤッとしてしまう
2016/08/12
HANA
以前は一人一冊だったのだが、この度新編として何人かの作家がテーマごとにまとめられての登場となっている。以前は作家の作風に目が向いたが、今回は幻想文学や小説の形式とは何ぞや、という所に目が向くような気がする。一巻目はそれにふさわしく幻想小説に真正面から斬り渡った作家ばかりで占められている。そこにあるのがシュルレアリスムであろうが、不条理であろうが、反世界であろうが、郷愁であろうが、読んでいる最中どこか別の場所を見ているという感覚が常に付きまとう。幻想文学の醍醐味というものを十分味わわせてくれた一冊であった。
2016/08/14
ぐうぐう
新編として新たに刊行された『日本幻想文学集成』。第1巻は「幻戯の時空」と題され、安部公房、倉橋由美子、中井英夫、日影丈吉の4作家が収録されている(つまり、4冊の合本)。たまらないラインナップだ。意表さでは、やはり安部公房が飛び抜けている。SFという科学を用いながら、理論を凌駕する幻想を描く公房のダイナミズムに痺れる。後にも先にも、倉橋由美子は倉橋由美子しかいないことを知らしめる孤高に切なくなる。一編を読むと、そのすべてを読んでみたくなる、そんな強烈な欲求を抑えられない。(つづく)
2016/08/04
ハルバル
私的な好み一等は倉橋由美子で、その硬質な文体の中に宿る生々しさやグロテスクに惹かれた。初期作品は更にぶっ飛んでいて強烈な読み心地。甲乙つけがたく良かったのは意外にも日影丈吉で、以前傑作集を読んだときには然程にも思わなかったのだが、今回はその飄々とした文体が読んでいて心地よかった。私は特にエッセイとも小説ともつかない作品の方が好きで、「ある絵画論」や「壁の男」、「墓偈市民」が特に良かった。他三者がそれぞれ高度に人工的な幻想世界を作っているのに対して、現実と幻想を互いに編み込んで平然としているのが好ましい。
2018/02/03
ゴロチビ
安部公房の「ユープケッチャ」が読みたかったので。他は読んでない。「方舟さくら丸」にも登場したユープケッチャという虫について、自分の糞だけで生存できる仕組みの説明は、糞に繁殖したバクテリアが養分を再生するからとあった。そのバクテリアが空気中から養分となるものを吸収でもしない限り無理があると思う。おおっと思ったのは、主人公の男が国土地理院の写真地図を専用のメガネを使って眺めて空中散歩を楽しむ場面だ。これ、まんまGoogle earth じゃんと思う。昭和55年の作品。
2023/06/03
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