後藤明生コレクション4 後期
後藤明生コレクション4 後期 / 感想・レビュー
ドン•マルロー
何と言っても「蜂アカデミーへの報告」である。山小屋にて蜂に刺された男が存在しない蜂アカデミーなる組織に報告書を提出し、そこに記載された内容がそのまま掲載されるという後藤明生らしく一風変わったスタイルの小説である。ファーブル昆虫記を初め膨大な資料の引用から、蜂と戦うための装備である捕虫網とハエ叩き等の詳細な記載、その他雑記的な記録などがバックボーンとなり、あたかも無数の枝葉をまとった巨木のような観を呈しながら、蜂への愛とも呪詛的ともとれる文章が綴られる。こんなクレイジーな小説が面白くないわけないじゃないか!
2018/11/13
Bartleby
「蜂アカデミーへの報告」を読みたくて手に取った。著者自身がスズメバチに刺されて死にかけた実体験をほぼそのまま小説にしている。蜂被害のあれこれやプラトン、ファーブル、アリストファネスなどからの引用によって編まれているのはさながらメルヴィルの『白鯨』であり、ほんとにどうでもよい内容であるのはカフカの「あるアカデミーへの報告」と同様だ。「ハエ叩き」など、くだらなさすぎて噴き出したほど。でもこれはみなほめ言葉だ。なぜこんなに面白く読めてしまうのか。「おまえなんか知り尽くしてやる」という執念の声が聞こえてくる。
2022/12/13
amanon
え!何なのこれは?一見、本書を多く占める、書簡体、講演風、あるいはレポートを装った小説の数々にいささか面食らう。文字面だけを追えば、サラっと読める内容なのだけれど、勝手に著者の二代目を名乗るいとうせいこうも指摘する通り、どこか著者独特の緻密なしかけが施されているようで、なかなか侮れない。個人的にとりわけ面食らったのが、架空のアカデミーへのレポートという人を食ったようなスタイルの「蜂アカデミー~」。「ハチキチ」ではないと言明しながらも、蜂についての蘊蓄が述べられるのも著者ならではか。いずれまた読み返したい。
2024/08/07
ハイザワ
『蜂アカデミーへの報告』。「報告」することで生まれる怪文書感。読者を無理矢理巻き込むことで、読者自身が「楕円」の中に巻き込まれる。「楕円」というのはその意味で、テクストの持つ平面に留まらない、テクストー読者間でも成り立つ立体的なものとして現れるのではないか……とかは別にどうでもよくて、家に蜂が出て退治したってだけの話をこんなに面白く書けるの天才じゃないですか??? まずタイトルの時点で勝ち。「蜂アカデミー」って何? 蜂とニンニク(?)の関係性について延々話した挙句、相手に誤解されるのもユーモアが効いてる。
2019/05/03
フリウリ
「蜂アカデミーの報告」が目当てで読んだ。しかし、「蜂~」や「十七枚の写真」などの報告型小説、そして「禁煙問答」「しんとく問答」などの問答型小説という、同じ「形式」の横糸に、蜂(および軽井沢の山荘)、そして俊徳丸(および四天王寺)などの、同じ「内容」の縦糸があいまって、1冊全体で1つの作品をなしているようで、とてもおもしろかった。小説は、テーマと文体で成り立つ。よいテーマを見つけることは、出発点に過ぎず、それをどのような文体や形式で展開するかに、小説の「肝」はある、ということを教えてくれるようだ。9
2023/03/05
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