九人の偽聖者の密室 (奇想天外の本棚)
九人の偽聖者の密室 (奇想天外の本棚) / 感想・レビュー
パトラッシュ
ミステリ評論家として有名なバウチャーが実作の筆を執っただけに期待したが、残念ながら期待外れに終わった。『三つの棺』の密室講義を引き合いに出しながら、そのトリックはカーマニアならガックリ来るレベルでしかない。殺人の動機も拵えすぎが否めず、映画のノベライズと言われたら納得するかも。何よりせっかく尼僧探偵という前例のないキャラを創造しながら、際立った個性も活躍もなく終わってしまう。あれほどユニークな物語性でミステリファンをうならせた山口雅也さんが、なぜこんなに絶賛したのか。シリーズの先行きに不安を感じてしまう。
2022/11/04
geshi
J・D・カーの〈密室講義〉に挑むハードルを越えられなかったカーもどきの感じ。日本語文脈ではなくいかにも訳文的な文章なのが読んでいて引っかかるのもマイナス。主人公が偶然から事件関係者と関わるようになり、ヒロインとつかず離れずの間柄になり、殺人を予告する呪いの通りの密室殺人が起こる展開はカーを思わせるプロット。カルト教団との対決とか黒幕探しが面白くなりそうだったのに文章の飲み込みにくさが阻害した。トリックも単純すぎて〈密室講義〉を元に検証しきれていないのも頷ける弱さ。
2022/10/03
鐵太郎
密室ミステリの巨匠ジョン・ディクスン・カーに献げられたミステリ。《奇想天外の本棚》という叢書の開始という出版上の宣言、H・H・ホームズというペンネームの驚き、などを含め、いろいろな点で挑戦的な作品ですが、なんといっても巨匠カーの「三つの棺」で提示されたさまざまな密室トリックの範疇に入らない新しい密室を提示したことがこの本の眼目か。アメリカ特有のキリスト教系カルトとかカトリックの尼僧の謎の行動とか、宗教絡みの展開が日本人には抵抗あるかもしれないし、ミステリ自体も少し肩透かしなのだけど、なかなか面白かった。
2024/03/01
だるま
山口雅也氏が製作総指揮する『奇想天外の本棚』が、版元を変えて再スタートし、その第一弾が本書。黄色の衣を纏った人物が部屋の中で立っているのを外から見た主人公達。部屋は密室で扉を壊して入ると人物は消えていて死体が一体。もう一つの扉は信頼の置ける女性に見張られていた。この不可能犯罪の謎を解くのが尼僧・・・というストーリー。カーの有名な『密室講義』を引き合いに出して、そのどれにも当たらないトリックを創造したとの事だけど、あまり感心出来なかった。探偵役の尼僧も没個性的。こんな作品から再スタートしちゃって大丈夫かな?
2022/11/10
飛鳥栄司@がんサバイバー
そもそもカーの「密室講義」をもとに、バウチャーがそこに当てはまらない密室ものを書いてやるぜっていう、マニアックなノリから生まれた作品なんだもの、それなりのマニアに受ければいいんじゃないかとも思う。密室に限らずだけど、トリックの種明かしをどれだけドラマチックに演出するかで、トリックがすごくもなるし、ショボくもなる。密室の謎一発でここまで話を膨らませて、収束させたバウチャーの努力を称えてあげたい。
2023/03/24
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