愛
愛 / 感想・レビュー
ケイ
時折、後ろから頭を叩かれたり、頭を押さえつけてしっかり見ろと促されていたかのような読書だった。『セルゲイ・アンドレーエヴィチ』において、汚いものの後に来る清い水は、清めるためなのか、あるいは両者とも清いものだということだろうか、と判断がつきかねる。ここには愛が見えるから。しかし、ほかの短編においては、排泄行為を立場が上のものがしているということは、彼らのその行為を形容するテキスト表現と取るべきなのだろうかと考えてしまうのだ。『真夜中の客』が一番好きだな。この女性は、受け入れる以外の何が出来ただろうか。
2023/06/10
ヘラジカ
初読は8年も前。多くの読書家に待ち望まれていた復刊が叶って喜ばしい限りだ。何度読んでも目が点になる作品集。表題作のインパクトに匹敵する短篇には、この8年でも数えるほどしか出会えていないように思う。初めて読んだときは「別れ」「競争」「シーズンの始まり」が良いと思ったが、二回目の今は「セルゲイ・アンドレーエヴィチ」がお気に入り。甚く感動してしまった。読書が好きな人は一度は手に取ってみてほしい短篇集である。世界が広がると思う。
2023/02/28
マリリン
読みながらロシアの美しい情景が想起される。静かにソローキンワールドに堕ちてゆく。17の短編の中で印象に残ったのは、終盤近くまで描写の美しさに陶酔した「セルゲイ・アンドレ―ヴィチ」、ロシアの森では...で始まる「巾着」、血も涙もない「シーズンの始まり」、やる気が失せないところに歴史的背景を感じた「弔辞」、作中にナボコフと著者が登場したものの眩暈がして最後まで掴み切れなかった「出来事」。置かれたコートの情景描写に感嘆。ロシアの歴史的背景が垣間見える。好みもあるが、芸術的色彩も感じる著者の作品は中毒性がある。
2024/01/14
蘭奢待
ザ劇薬。ダダイズム、シュルレアリスムの系譜からくるポストモダン文学。まさに破壊的。読者を阿らず、理解を拒絶する作風で、吉村萬壱作品の作風に近い。あの亀山郁夫先生の訳出はさすが。
2023/04/29
そふぃあ
短編集。初めから様子がおかしいか、或いは途中まで普通なのに不思議な力でエログロナンセンスに捻じ曲げられてしまう。ある瞬間に物語が発狂する。安らかな結末など与えてくれない。 後者のパターンの場合、前半と終盤を別々に読まされたら絶対に同じ短編ではない、ありえないと断言できるような物語中の断絶がある。読者を置き去りにし困惑に陥れるこの断絶は、ある種の暴力と言ってもいい。その辺のホラー小説より怖かった。 カバーを外した本体表紙もサイケな装丁でめまいがする。
2023/08/18
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