昭和の犬
昭和の犬 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
時間的にも空間的にもきわめてリージョナルな小説。物語の冒頭は主人公のイクが5歳の時。1963年だ(ちなみに、東京オリンピックは、その翌年)。所は滋賀県香良市(架空だが、明らかに甲賀市だろう)。紫口市から香良市に馬車で向かうというところが信じがたいのだが、そこは滋賀県の田舎町でのこと。当時はそんなものだったのだろう。小説の地の文章は共通語だが、会話文は滋賀の方言そのもの。この作品がよくも受け入れられたものだと思う。テーマも、今時には珍しい「知足」。犬を媒介にしていなければアナクロニズムそのものでしかない。
2016/08/19
遥かなる想い
150回(2014年)直木賞受賞。 柏木イクの成長を 通して、昭和を描く。 著者のしつこいまでの犬への 拘りが、物語に奇妙な リズムを与え、昭和を 別の視点で甦らせていく。 昭和33年生まれのイクたちの 過ごした日々の描写は、 「三丁目の夕日」にも似て、 暖かい。ところどころに 垣間見られる昭和の エピソードがなぜか懐かしく ほのぼのと読めるのは 著者の視線が読者の懐古に 繋がり、心を優しくさせる からなのだろうか。最終章は 迫り来る高齢化社会の日々を 昭和と対比させながら、 穏やかにまとめた章だった。
2014/02/09
ミカママ
作者は『姫野版・放浪記』を描きたかったのだろう。そのちょっと他人とは風変わりな人生には、常に犬(ときに猫)が居た。流行していたアメリカのTVドラマと、当時の世相を横糸にして。似たような時代を過ごしたわたしには胸迫るものがあったが、当時を知らない若い世代にはこれがウケるだろうか。もっと先を読みたい、というところでスルッと次の章に移る手法は、上手いようでいて「かわされた」感もシコる。みなさんおっしゃるように、なぜこれが直木賞?なのだが、中のヒトに近い友人によると「直木賞は功労賞」ということで納得。
2020/09/19
takaC
なるほど。これらの話をまとめた一冊に『昭和の犬』と名付けたのね。腑に落ちた。
2017/10/31
文庫フリーク@灯れ松明の火
初ノミネートで直木賞受賞された朝井まかてさん『恋歌』5回目のノミネートで初のノミネートから17年経過しての受賞・姫野カオルコさん。実在の人物を描いた『恋歌』の激動とは対照的に、市井に生きる女性の視点で、その折々に親しかった犬を通して描かれる「昭和」という時代。「後年になって分かる事と、子供には分かるはずもない事。当時は近すぎて見えなかった物が、今を視点にしてカメラを引くと掴める。遠くにある物は掴めて、近くにある物ほど掴めない。人生なんてその繰り返しかもしれません」著者インタビューが、この作品の肝かも→
2014/03/08
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