脱北航路
脱北航路 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
月村了衛は初読。終始一貫して緊張感を失わない筆力である。読者もまた、そのスリリングな展開を追体験することになる。作中の場面のほとんどを占めるのは、狭い潜水艦の中である。したがって、登場人物同士の関係性はいたって緊密にならざるを得ない。しかも、元来が共和国(北朝鮮)海軍軍人という狭小な世界の中のさらなる小世界である。本書は、そうしたややもするとマイナスに働きかねない要素を実に巧みに小説としての長所に変えて行く。潜水艦を乗っ取っての脱北。そして、そんな彼らの命綱でもある拉致被害者の珠代。小説だからこそ可能⇒
2024/10/01
いつでも母さん
拉致被害者の言葉が胸に響く。厳しくキツイ現実がある。だからなのか、これは、こうあって欲しいと私の願望でもあった。海は繋がっているのに、線なんて見えないのに、そこには高くて深くて硬い壁がある。同じ言語を持ちながら遅々として進まない政府と言う壁もある。この救出・亡命ドラマは圧巻。もう・・胸がいっぱいになって最後まで読んだ。日本海の荒波で揉まれた老漁師の心意気が熱い。そして潜水艦11号の漢たち・・あの国に沢山いて欲しい。
2022/05/15
おしゃべりメガネ
久しぶりにハマりにハマった月村さん作品。『土漠の花』か好きなら絶対に読んでほしい作品です。舞台は北朝鮮の潜水艦で亡命を企てるアツき男達の戦いがエンタメ感フルスロットルで綴られています。『土漠~』の海中版で人物も日本人から朝鮮人へと変わってるだけかもしれませんが、とにかくその描写は圧倒的でページを捲る手がとまりませんでした。名前が覚えにくいのはちょっと難ありでしたが、それでも魅力的に感じる人物描写はさすがです。『レッドオクトーバーを追え』を彷彿させる展開もシビれてしまい、とにかく夢中になって読みました。
2022/05/30
まちゃ
これは反則ですね。45年前に島根の海岸で拉致された日本人女性の帰還。これが日本人の琴線に触れないわけないですよね。「お父さん、お母さん、私、ここにいるよっ、...」文字が滲みました。拉致問題の早急な解決を望みます。
2022/05/29
しんたろー
北朝鮮の潜水艦が45年前に拉致された女性を乗せ日本へ亡命しようとする話…「優秀な企画は一行で言い表せる」が映像業界では常識だが、本作はそれが証明された成功例。興味を惹くストーリーラインに群像劇的な人物配置が物語に深味を増して、ページを捲る手が止まらない。海でのバトルは手に汗握るし、ドラマとしての盛り上がりも心憎い限り。艦内の人物だけでなく日本側の人物にも布石を打ってあるのが終盤に効いてくるのも「巧いなぁ!」と膝を叩いた。問題提起をド真ん中に据えながら、エンタメとして大いに楽しませてくれる筆力に脱帽の一冊!
2022/06/17
感想・レビューをもっと見る