いとしい (幻冬舎文庫)
いとしい (幻冬舎文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
相変わらず、どこかとぼけたような味わいの物語。今回は途中までは、このまま日常世界にとどまるのかと思いきや、やはりいつの間にか「この世」ならぬものが浸食してきたりする。いつもながら、柔らかく蕩けるような物語世界だ。ところで、表題の「いとしい」は、形容詞なのだが、ここではそれが単に心の状態を表しているばかりではなく、もっと能動的な情動として機能しているようだ。ただ、マリエの情動はとうとう紅郎を動かすにはいたらなかったのだが。そうしてみると、これはまた「諦念の物語」でもあったのか。
2012/07/26
ゴンゾウ@新潮部
春の陽気の中で読んだせいだろうか。いつもにもましてふあふあとした心地の良い空間を漂っている感じがした。人を好きになるということとは、好きになると決めること。深いなあ。 でも好きになるって素敵だけど、辛いし苦しいし怖い。でも人を好きになるっておさえられない。ユリエもマリエもミドリコもみんな素敵だなあ。
2017/04/06
ナマアタタカイカタタタキキ
まだ名前の無い事象に、長い長い名付けをするような話。或いは、いとしい、という名前の由来を語って聞かせるようでもある。ふんわりとした寓話的な空気の中で、奇怪な生命体のように蠢くその感情は、外の世界で完成品のそれを見つけて拾うのではなく、ある日突然自分の内側で発芽して、やがて各々独自の形状へ育っていくものだということを思わされる。不確かな事象だからこそ、この不確かな風景の中ではより生き生きと描かれているのかもしれない。この現実離れしたとりとめのなさは、好き嫌いが分かれるに違いないけれど、私は存分に堪能できた。
2020/12/21
優希
静かな時間が流れていました。不思議で淡々としている恋。夢の中にたゆたうような空気感。心地良くて心地良いとは言えない。川上弘美さんの世界観が美しく灯っていました。
2021/10/29
橘
この空気がとても好きです。ふわふわととりとめなくつかみどころがないようで、しっかりと世界に絡めとられている、その感じが決して嫌ではなく、心地よいです。人を好きになるって、こわいことなのかもなと思いました。叶う思いも、叶わない思いも、あっていいのかも。誰かをいとしいと思うことは、幸せな反面、とてもつらいかもしれないけと、それでもやっぱり、誰かを好きになるのだろうなと思いました。
2016/11/30
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