漁港の肉子ちゃん (幻冬舎文庫)
漁港の肉子ちゃん (幻冬舎文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
タイトルはやはりあまり感心しない。「肉子」という言葉にはどうにも馴染めないのだ。さて、西加奈子の小説にはアタリ・ハズレがあるのだが、これはアタリ。語り手であるキクりんの肉子に対する批評意識が、肉子の造型を膨らませてゆくばかりか、小説そのものの推進力となっている。そして、その批評はキクりん自身にも及び、彼女の内省を促しもする。これによって小説はさらに深みを加えることになる。それになにより読んでいて文句なく面白い。ペーソスの味付けも充分にある。重松清の女性版という気がしなくもないのであるが。
2020/05/23
鉄之助
港にある「うおがし」という焼き肉屋が舞台。これだけで、面白いではないか! 毎日新鮮な魚ばっかり食べていると、「やぱっり肉が食べたいな」。わかる、わかる。その気持ち。肉子ちゃんは、決まって”糞野郎”にだまされる→ボロボロになる→夜の店で働く、の繰り返し。「人間関係の始め方も、下手くそ」だが、みんなに愛される。彼女の娘・キクりんとの掛け合いが、たまらなく心地よい快作だった。
2024/03/09
抹茶モナカ
何より、サクサク読めるのが良い。漁港の焼肉屋に勤務する肉子ちゃんと、その娘キクりんを軸に、漁港の暮らしが描かれる。明るいデブの肉子ちゃんは勿論、キクりんの友達二宮やキクりん自身も変な癖を持っていて、そんなあれこれを認めてくれる物語なので、僕もちょっとした癖があったりするのだけど、「僕みたいのもアリなのかな。」と、自分を受け止められる感じがした。読んでいて、フィジカルにお腹の空く本だ。読みやすく、温かい本でいて、ちょっと切ない成り立ちの本。
2016/02/12
しんごろ
個人的には関西のよしもとばななさんと言っても過言ではないくらい、優しさと温かさとほのぼのさが、満遍なく包みこまれました作品ですね。肉子ちゃんがいいキャラで、肉子ちゃんから、いっぱい元気をもらいました。キクりんのクレバーさもいいですし、サッサンの渋さもいいですね。マリアちゃんは人の優しさのわかる優しい大人に、二宮は大人になったら、きっと大物になるんじゃないのという勝手に想像をしちゃいました。登場人物もなかなかで、読みやすく伏線を拾ってくラストは秀逸!落ちこんだ時にまた再読したい素晴らしい作品でした。
2017/08/30
yoshida
肉子ちゃんこと菊子、娘のキクりんこと喜久子。とある漁港にある町に移り住む二人。焼肉屋「うをがし」で働く肉子。「うをがし」の店主サッサンを始めとした漁港の住民が母娘を優しく包む。物語の後半に回収される伏線。病院でサッサンがキクりんに掛ける言葉が身に染みる。生きている限り周りに迷惑は必ずかけるし恥もかく。しかし皆がそうして生きている。ついつい顔を出す私の自意識が宥められた。また、肉子ちゃんの清濁合わせ呑む姿は聖母のような印象を受けた。様々な境遇に逢いながらも懸命に豪快に生きる。読書で久々に生きる勇気を貰えた。
2016/03/01
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