玉磨き (幻冬舎文庫)
玉磨き (幻冬舎文庫) / 感想・レビュー
佐島楓
玉を磨くだけの伝統産業、通勤用の観覧車など、そこに意味は生じるのだろうか、と首をかしげたくなるようなことごとが現れる。その存在意義を問うとき、しかし読者は、深い懐疑にとらわれるだろう。ものごとの本質とは、どこにあるのか、と。現代のファンタジーであるように見えて、社会派、もしくは哲学の要素も含む、不思議な味わいの作品集。
2016/08/13
rio
ルポライターの私は全国を訪ね歩き、「不思議な日常」を取材する6つの短編集。受け継がれる伝統が終わりを迎える哀しさが切ない一方で、失われていくことに対する登場人物の想いが澄み渡っているため、綺麗な喪失感が漂っていました。フィクションだとわかっていながら、読んでいるうちに現実味を帯びてきて、妙なリアリティがあります。作者がどのように詳細な設定を考えているのか物語以上に不思議でした。
2018/12/04
dr2006
一つ隣りのパラレルワールドにある町の出来事を、公的文献を索引した様な語り口で物語にしてしまう。通勤用観覧車、擦り減らない玉磨き、海底に沈んだ町の商店街組合など、三崎さんらしいニッチな題材、タイトルからしてユニークな6つの短編だ。主人公のライター「私」は、日常からフェイドアウトする様に人々の記憶から忘れ去られる事案をレポートする。 往古来今を曖昧にすることで平行世界へのトリップ感が増す。ふと足を止め眺めたある街角で、いつの間にか撤去された建物が、そこに何が建ってたかを思い出せない。そんな読書感の作品。
2024/10/22
エドワード
日頃見慣れ聞き慣れたものの意味や目的を問い直すシニカルな6つの短編、ズシリと重い。伝統産業って何?な<玉磨き>。観覧車で通勤する<通観>?山手線をわざと逆まわりで時間つぶしをして、思わぬ発見があったことを思い出すね。世代論の無意味を問う「古川世代」。「ガミ追い」のガミって、神様のようで鬼のようで、民俗学の盲点をつく話。「分業」に出て来る言葉「我々自身が『部品』であり、日々を生きるという行為もまた『分業』そのものである。」こりゃもう哲学ですよ。複数の話に出て来るネットの検索忌避制度って、実在しそうで怖い。
2017/12/03
橘
面白かったです。失われつつある仕事について描かれた三崎ワールド、堪能しました。どのお話もどこか切なくて良かったのですが、一番好きだったのは、通勤観覧車を運用する会社についての「只見通観株式会社」です。どこにも進めない路線の通勤観覧車、乗ってみたいです。このお話と、ラストの「新坂町商店街組合」は三崎さんの他の作品と繋がる世界でした。海の襲来、という自然災害は、安土萌さんの「“海”」を思い出します。しかしこちらは政府の思惑も見え隠れしますが…。「検索忌避制度」は怖いです。巻末の参考文献も面白かったです。
2018/12/05
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