口笛の上手な白雪姫 (幻冬舎文庫)
口笛の上手な白雪姫 (幻冬舎文庫) / 感想・レビュー
rico
多くの人が気にもとめない片隅にあるものへのこだわり。あたりまえ、への違和感。そんな人々の世界を小川さんは淡い光の中に浮かびあがらせる。そして多分、もう1つの主題は子ども。芽吹き育つ、伸びやかな命。その季節の輝きに無自覚なまま、まどいつつも歩みを進める子どもたち。かつてそうでったあったことへの哀惜。見つめる大人たちの眼差し。奪われた未来への声にならない慟哭。全ての赤ん坊への無条件の慈しみを描く表題作は圧巻。この余韻を稚拙なレビューで形にしてしまうのが、何だかもったいなくて。久々の小川作品、堪能しました。
2022/12/15
ふう
目を凝らしても見えない、耳を澄ましても聞こえない。でも、気づかないほどの小さなすきまに静かに在る世界。小川さんはそんなひっそりとした不思議な世界を見つけるのが本当に上手です。その静かな世界の心地よさにずっと浸っていたいと思うのですが、今回はちょっと見えない方がよかったかも、という世界もありました。「先回りローバ」が好きです。老婆じゃなくてローバ。いいですね。
2020/09/05
エドワード
公衆浴場に暮らす白雪姫こと、お客さんの赤ちゃんの守りをする小母さん。小母さんという表記や天花粉という言葉のやさしさ、壁画の森という表現がメルヘンに富んでいる。帝国劇場で亡き伯母の面影を想起する切なさ。廊下に鎮座する黒電話への愛と畏れ。こういう気持ちってあったね。電話のリンリンの音が聞こえるようだ。小川洋子さんの紡ぎだす世界は昔物語になりつつある。若い人には感覚的にわからないかもしれないけど、同世代にはたまらない。かつてあった何気ない暮らしの描写が的確で、五感から幼い頃の記憶や感情を呼び起こされる短編集だ。
2020/08/25
masa
そうにしかならない。あるがままを受容しつつ平易で隙のないことばに変換された物語たち。推しの作家と脳内で意思疎通を繰り返し、次第に現実の足元が曖昧になってゆく「仮名の作家」は真骨頂。多くの物語が感情移入するためには現実感を必要とするけれど、著者のそれは美しいものにも醜いものにも平等に不条理だから、空想が現実を呑み込んで空想のまま、酷く奇妙で生々しく読者へ迫ってくる。妊婦や新生児のような世界に祝福を約束されたものたちへの、それを当然と享受する傲慢さにほんの少しの忌々しさを含んだ視点がいつも恐ろしい小川ールド。
2022/02/05
Vakira
洋子さんの珠玉の8編。いいです。ヨーコ節世界はたまに理系的視点で、宇宙や変わった生物が登場するので僕の感性に丁度良い。で、僕の創造脳はリラックス。時に優しく、時に悲しく、今回、艶ぽい官能感は封印なのは残念でしたが、静謐と癒しの掌編。吃音なのは僕の誕生日に6日の差があるから。かわいそうなのはシロナガスクジラの骨。迷子になったっていつも事だから大丈夫さ。あの作家の小説は全部暗記しているの。廃線にならない様に今日もこの電車に乗る。公衆浴場の片隅、赤ん坊を預かり面倒を見る、口笛を吹きながら・・・
2024/02/09
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