蜩ノ記
蜩ノ記 / 感想・レビュー
遥かなる想い
第146回(平成23年度下半期)直木賞受賞作品。元藩主の側室との不義密通を理由に10年後に切腹を命じられた戸田秋谷の生き様を軸に、江戸時代の庶民武士の日々を描く。戸田秋谷の潔さがぶれずに読む側の共感を呼ぶ。命を区切られた時人はどう生きるのか・・この命題を軸に本当に10年前何があったのか、そしてなぜ家譜作りをさせてその後切腹なのか・・という要素を盛り込みながら 結末へと読者を誘っていく。子を思う親の心、武士の生き様などが 丹念に書き込まれていると思う。
2013/06/01
yoshida
藤沢周平氏の「蝉しぐれ」とやや似ているような。一貫して書かれているのは、武士として筋を通して清廉に生きるということ。家族のため、友のため、領民のため矜持を持って生きる。主人公の戸田秋谷の自裁の期限を決められても、淡々と過ごす生き方。この凛とした強い生き方は胸を打たれる。監視役の檀野庄三郎も感化される。しかし、幽閉中の身の子息が家老に一矢報いに行けるものか?もう少し重厚感のある内容が好みかもしれない。浮世離れな感が残るのだ。やはり、時代小説は藤沢周平氏が好みかな。
2015/02/14
hiro
初葉室作品。直木賞受賞作ということで図書館で予約。この作品が直木賞を受賞しなければ、葉室作品に出会うことはなかったかもしれないので、この出会いを作ってくれた直木賞にますは感謝したい。藩主の側室に関する政争に巻き込まれ10年後の切腹を言い渡されながらも、最後まで凛とした佇まいを崩すことのない武士とその家族、そして理不尽な封建社会の中で生きて行かなければならない農民たちが描かれていて、藤沢周平作品に似たと清々しい時代小説だった。題名、表紙もこの作品に相応しいと思う。また羽根藩を描いた他の作品を読んでみたい。
2012/08/27
kazu@十五夜読書会
過去のお家騒動に絡む陰謀に巻き込まれ、藩主に10年後の藩史編纂完成後切腹という藩命を受け、幽閉された元郡奉行・戸田秋谷、武士の矜持を貫いた感動の時代小説。友人との刃傷沙汰を起こした庄三郎は、秋谷の家譜編纂手伝いを名目に監視役として幽閉先に送り込まれるが、秋谷が切腹に追い込まれた事件の陰謀を暴こうとするが・・・無実の罪で農民の源吉が激しい取り調べの中、村人を庇い妹を怖がらせない為に拷問に耐えながら、笑顔で死する場面にショックを受けた。秋谷と戸田一家の燐とした言動に感銘した。素晴らしい時代小説に出会えた。
2013/02/19
文庫フリーク@灯れ松明の火
この物語の土台を支えているのは、身分も学問も無き源吉と感じてしまう。暮らしは貧しくとも豊かな心と情。幼いながら、その生きざま有ってこそ活きる「源吉の痛みをご家老にも知っていただきとう存じます」(郁太郎)「存分におやりなさい」(庄三郎)「倅が手加減いたした証でござろう」拳で語る秋谷の「領民の痛みをわが痛みとせねば家老は務まりますまい」 相対する大物ぶった悪役たちの、なんと卑小に見えることか。源吉の存在ゆえに慶仙の諭しも活き、土壇場に臨む秋谷の心映えも深さを増す。葉室麟さん、直木賞受賞おめでとうございます。
2012/02/15
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