赤へ
赤へ / 感想・レビュー
ケイ
コソッと隠れているかすかなトゲ。隠されているのかな。それが、ベージの所々にあって、気付かないうちに指や心を刺す、ひっ掻く。短編を読み終わるたびにあれっとなるのは、血も出ず見えないけどかすかに疼く傷があるから。見かけのその人をいくら見ても、その人の隠し持つトゲはわからない。でも、知らなくていいのだと思う。愛情があれば、思いやりがあれば、それは見過ごしていくのが、互いのため。余韻の深い短編たち。男性はこういうのをどう読むのかしら。
2016/09/10
新地学@児童書病発動中
死をテーマにした短編集。赤を基調にした美しいカバーが印象的で、題も「赤へ」である。この赤は人間の体の中に脈打っている血液を表しているのかもしれない。死とは正反対の生きた人間の血流である。どの短編にも死が顔を覗かせ、登場人物たちを翻弄する。お気に入りは「どこかの庭で」と「雨」。前者はガーデニングのブログによる儚いつながりが現代的。そんなつながりでも人は励まされるのだ。後者は荒野さんが、父井上光晴氏の精神を受け継いでいることがよく分かる内容。いじめに対する母親の怒りは、娘を変えられるのだろうか。
2016/09/08
めろんラブ
死をモチーフにした十短編。キリキリと五感に差し込んでくる死のイメージが鮮烈でした。それは、生の息遣いを丹念に描いているからに他ならず、井上さんの筆さばきが圧巻の作品でした。年を重ねるにつれ、生死に関わる諸々に対する切実さが薄らいできたように思います。おそらくそれは、別離の辛苦から逃れるための諦観という処世術なのでしょう。そのような靄(もや)がかった私の感性に塗りたくられた「赤」は、静かでありながら獰猛で、封印していた感情が暴れ出しそうになりました。
2017/04/17
青蓮
読友さんの感想より。初読み作家さん。「虫の息」「時計」「逃げる」「ドア」「ボトルシップ」「赤へ」「どこかの庭で」「十三人目の行方不明者」「母のこと」「雨」10編収録。淡々とした語り口で進む物語は死をテーマにしていることもあって全編にわたって乾いた冷たさがあるけれど、時折ほんのりとした暖かさも感じられて、不思議な余韻がある。中でも印象的だったのは井上さんのお母様のことを描いた「母のこと」で、読んでいると細やかな愛情が伝わってくる素敵な作品。ラストを飾る「雨」は子供特有の残酷さに戦慄する。そして大人の狡さも。
2016/07/25
おくちゃん🍎柳緑花紅
「死」を巡って炙り出される人間の(ほんとう)と帯にある。読解力の無さが歯がゆい。そんな中でも10の短編の中「赤へ」「どこかの庭で」「十三人目の行方不明者」「母のこと」「雨」後半の五篇が沁みる。特に「母のこと」読んでよかった。「雨」のラストの締め付けられる胸のドキドキ感。井上荒野さんの作品を読むことはやめられない。
2017/03/24
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