きつね月
きつね月 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
18のスタイルを持つ、妖の物語。日本では古来から狐が人を誑かしてきた。一方、西欧では月はlunaであり、冷たい狂気のシンボルであった。ここで多和田葉子は縦横無尽に語りの妙味を披露して見せるが、そこには通常の意味での実態はない。ただ言葉があるだけだ。それでは言葉は実態ではないのか。いや、むしろ言葉こそが実態であって、言葉のないところには実態はないのかも知れない。それでは、言葉は物語世界を造形するか。その答えは然りでもあり、また否でもあるか。我々読者は、ただただ翻弄されるがままなのだ。「きつね月」なのだから。
2014/12/07
ケイ
見えている物は、もしかしたら見えているままとは違うのかもしれない。本当の姿は違うのか、勘違いなのか。本物か、虚像か、もしくは偽物か。見方を変えるとどうなるのだろう。読者の想像力を刺激する。しかし、読者がその場面たちを絵に描けば、描くものは同じになる気もする。不思議な、狐につままれたまま終わるお話たち。
2015/04/14
ちょろこ
いい意味で時間がかかった一冊。こんなに時間がかかった読書は久しぶりかも。何というか…言葉の波に溺れそうな感覚に陥り、とても一気には読めなかった。言葉と言葉のぶつかり合い、掛け合わせに斬新さ、美しさを感じ、リズミカルな紡がれかたに呑み込まれ溺れそうになりながら、何度も味わう不思議な感覚。そしてあとがき。ようやく理解した。「来つ寝」そう、これはつまり心にもぐりこまれた、それこそ多和田作品に憑かれた状態なんだ、と。
2018/08/01
mii22.
夢から覚めたような覚めてないような、まどろみのなか不安定な意識が観せる映像のような文章。ポコポコと涌き出るような不思議な言葉たちに、もてあそばれ、惑わされ、翻弄された。グルグル思考は巡らせども、思考停止。ところが、ぎゅっと心掴まれ二度読み三度読みするような言葉や一文に出会うと嬉しくて、ウキウキしてしまう。そんななか一番お気に入りのお話は、いちおう主婦なので、台所が舞台のホラーテイストの短篇「台所」。あとがきを読んでストンと腑に落ちる。著者の思惑通りに読まされたんだ、私。
2017/11/27
蘭奢待
短編集。1998年刊。多和田作品らしく、夢と現実が入り混じったような、幻想的、悪く言えば意味不明の文章が並ぶ。とくに驚きは「遺伝子」。この作品は何なのか。作者は支離滅裂を表現したのだろう。機械的にランダムに並べるなら簡単だが、文章を読むと作者の意思を感じる。全体にストーリーは無きに等しい。このような無ストーリー作品や、思いもしない突飛ストーリー作品が紡ぎ出せる作家をリスペクトしまう。
2019/01/16
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