ニジンスキーの手記 完全版
ニジンスキーの手記 完全版 / 感想・レビュー
tomo*tin
伝説のバレエダンサー、ニジンスキーの発狂後の手記。明らかに様子のおかしい文脈、幼稚な言葉の羅列で語られる、神と精神と欲望と絶望と愛。言葉では表現不可能な闇、闇、闇。実は昔一度読んだきりで封印していた本書。一歩間違えるとあちら側へと引っ張られ戻れなくなる恐怖があったからだ。研ぎ澄まされた感覚は常軌を逸し、崇高な魂は強靭さを併せ持ってはいなかった。美しさとは何か。神とは何か。愛とは何か。生きるとは?私は最後の手紙でやはり泣いてしまった。どこからか、心が軋んで割れる音が聞こえた。
2009/05/01
Roadblue
フィギュアの羽生結弦選手の今シーズンのフリー曲「origin」は彼が憧れたプルシェンコの「ニジンスキーに捧ぐ」を編曲したものだそう。驚異的な跳躍力と独創的な表現でロシア革命前後に活躍するが後年は統合失調症を患う伝説的な悲劇のバレエダンサー。 手記は後の発狂を示唆する雑駁な書きぶりで自意識過剰で傷つきやすい性格が見られるが敬虔なキリスト者としての思いも溢れている。また民衆に対して神の一部として自分のバレエで感動を与えたいというナイーヴで一途な思いが綴られ、ダンサーというよりは純粋な前衛芸術家といった感じ。
2019/03/03
kokekko
こわい本に出会ってしまった。ニジンスキー発狂後の手記。文章は明らかにおかしいのに、それを普通に読んでしまえる事が怖い。目の前で本人が話しかけてくるような、妙に生々しい文体。神のような踊り手も鍛錬によって変身した人間であるように、こちら側からあちら側へは、細くても確かに橋がかかっているのだと、いつのまにか理解させられてしまう。繰り返される「私」で曖昧になる主体性の境界。半分くらい読んだ所で、彼の美しい肖像を見るのが怖くなった。光のない瞳の奥にある、何か底知れないものにおいでおいでをされる。
2009/12/09
ゴロチビ
伝説のバレエダンサー&振付師ニジンスキーの底知れぬ魅力に触れたのは山岸凉子の漫画「牧神の午後」。「手記」を読んだところで何か新たな情報があるだろうか?と思いつつ好奇心で手に取る。一度でも世界的名声を得た人間が挫折して心を病むというのは有りそうな話。これが書かれた狙いは何だろうと思いながら第一部までは読んだが、後は飛ばし読み。むしろ解説の方が興味深い。頭ではなく感覚で踊る憑依型ダンサーの踊りは人々を魅了したが、その振付は本当に理解されたのだろうか。Uチューブで見た春の祭典と牧神の午後は私には理解不能だった。
2022/01/17
リエ
20世紀初頭のバレエ界に彗星の如く現れ、8年後「神との結婚」と自ら呼んだ公演を最後に衆目の前から姿を消した希代の舞踏家・ニジンスキーの手記。 実は数日前に読了していたのですが、自分の中でどうにも消化しきれず時間だけが過ぎてしまいました。 人生についてifを考えるのは詮ない事なのかもしれないけれど、それでも思ってしまう。 もしニジンスキーがなんの屈託もなくバレエに専念できる環境だったら、彼の人生はどうなっていただろう?
2018/11/11
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