貧しき人々の群: ほか (宮本百合子名作ライブラリ-)
貧しき人々の群: ほか (宮本百合子名作ライブラリ-) / 感想・レビュー
しんすけ
十七歳前後で読んで愕然とした記憶がある。 『貧しき人々の群』が、十七歳の中条百合子によって書かれたことを知ったからだろう。 十三歳くらいから文章修行をしていたが、『貧しき人々の群』のように、自分を客観視できるまでには未だ到達していなかったからだと思う。 『貧しき人々の群』は坪内逍遥の関心をひき、1916年に中央公論誌上に掲載された。百合子が逍遥と接する環境を得ていたことは恵まれていたと言える。 だが与謝野晶子がこれを読んで高く評価したのだから、恵まれていたとの一言で終わるような作品ではない。
2022/11/05
真田ピロシキ
伊藤野枝評論集で野枝が高く評価していた著者の3遍を収録。表題作『貧しき人々の群』は寒村にて慈愛精神を持つ地主のお嬢さんが貧者たちのために心を砕くも、安全地帯で上から目線では同じ物を見ることは叶わず、また貧者たちも素朴で善良とは程遠い。著者自身の欺瞞を意識したと思われ、当時17歳のお嬢さんがこれを書いた内省の深さに唸らされる。『禰宜様宮田』は欲も野心もない農夫が親切を因業な鬼婆に付け込まれ破産する物語。非人間的な資本家の搾取の姿。当時以上にその化け物が肥大化した今読むと他人事には感じない現実味
2023/08/02
tekka
『大杉栄評論集』で激賞されていた『禰宜様宮田』が気になり、読んでみた。予想を遥かに上回る完成度に驚愕させられる。作者が18歳の時に福島県で取材して書いたそうだが、作者と同じ体験をしても絶対にこのようには書けないと思わされる観察力と文章力が冴えわたっている。日本女子大学在学中、17歳で発表した表題作については最早言うまでもない。
2021/12/01
おにぎりの具が鮑でゴメンナサイ
天才少女と謳われ、当時のアメリカに学び、女性と同棲生活を送るなど、フェミニストの先駆けであるとの事だったので、てっきり「百合族」とは作者を契機としての造語かと思ったら、ぜんぜん違った。どこにもそんなことは記録されておらず、とんだ勘違いであった。後年は共産党員として艱難の道を歩んだが、その志の起点となるものが本書にも如実に記されている。少女が書いたとは思えぬ卓越した視点と考察が伸びやかに表され文学として読んでも素晴らしく、更には日本民俗史から鑑みても貴重な一冊だと思うのだが、レビューが私一人で寂しいかぎり。
2015/12/24
てれまこし
私の祖母などは颯爽と自転車に乗る中條百合子さんを「さすが東京のお嬢さんは違う」と羨望の眼差しで見ていたのだが、当のご本人はそんな立場を居心地悪く感じていたらしい。確かに、小作人の貧困に同情する地主の娘という、そのまま書けば小説になるような羨ましい(?)立場ではあったのだが、それを差し引いても、都会の文士の私生活には欠けている社会性があり、むしろロシア文学に近い手触りがある。若さゆえの自己陶酔みたいなところもないではないが、小作人の心理の分析もしっかりできている。確かに、17歳が書いたものとは思えないな。
2018/03/04
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