寡黙な死骸みだらな弔い
寡黙な死骸みだらな弔い / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
緩やかに繋がる死と寂しさと孤独に囚われた者たちの物語集。それらは腐爛し、人々の日常を静かに、グロテスクに蝕んでいく。「老婆J」のみ、『リテラリー・ゴシック・イン・ジャパン』で既読。「果汁」の悼みと悲しみを真摯に静かに受け止める姿に胸を打たれる。「白衣」の不倫相手の助教授について話す女の執着以上にそんな彼女に心酔し、彼女を俯瞰するかのように何でも知ろうとする語り手も怖い。「心臓の仮縫い」の心臓を入れるためのバックの生々しさ、「拷問博物館にようこそ」の恍惚とした女特有のサディズムの目覚めに微笑んでしまう。
2017/02/27
優希
とても素敵な短篇集でした。妖しくも美しい世界が広がっていきます。ささやかながらつながって紡がれていく物語。静かさの中で虚構と現実が曖昧になり、幻想的な世界へ引き込まれます。むせかえるように立ち上る死の匂い。グロテスクで官能的な雰囲気が漂いますが、決して嫌らしくならず、綺麗に品のあるまとまり方になっていて独特な雰囲気でした。途中に挟み込まれる挿絵の不気味さも物語の世界観にしっくりきていると思います。
2015/11/18
mii22.
まず死がそこに存在し、物語は始まる。腐爛していくほどに甘い香りが漂ってくるような11篇のお話。どこまでも静寂な世界がひろがり、冷たい空気にからだが包まれる。時折覗かせる美しくグロテスクな官能と毒。一篇一篇読み進めるごとに深く深く小川ワールドに浸り、埋もれ、絡めとられる。11篇がさりげなく繋がり、ひとつの物語が霧のなかから現れるような構成にちょっとした驚きの溜め息がでる。表紙絵、挿し絵も物語の世界観にぴったりはまって素敵。
2017/02/24
キジネコ
小川洋子の指が胸の奥にゆっくりと沈みます。骸の内、そこに眠る思いを読み取ります。温もりを失った肉が生きて、溜息をつき、理不尽な恋に焼き尽くされた日々の残滓を指は解き放ちます。高潔な処世、正義の束縛、穏健な心情、踏み外さぬ常道、雑多な連鎖が私たちを何かに繋ぎ止めています。楽しむ為に人生を眺めれば余りに それは短いと漸く気付かされます。11の短編と樋上公実子の挿画が作り出す円環、二人の魔女の指が読者の奥で隠微な呪いを致します。心を抉る程に踏み込む事を恐れ、忘れたふりで満足する意気地なし、鎖を切って愛を語れ。
2016/03/03
Zann
★★★★★読友さんのレビューに惹かれて久々の小川作品。静寂と透明感豊かな文章。しかし、小川さんの静寂はキーンと耳に響くような静寂であり、透明感は繊細なガラスの様に、透明であっても確かにそこにある透明感。今だとホラーに分類されるような幻想小説の短篇集。少しずつ重なり合いながら、それでいて、いつでも本を閉じれる様な心地良い文章o(^o^)oふと気づくと胸の上に氷を乗せられたかの様なヒヤリとした涼しさ。夏向きな読書を堪能。読友さんに感謝です(≧∇≦)
2016/08/05
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