ツタよ、ツタ
ツタよ、ツタ / 感想・レビュー
chimako
身体の内に留め置けないほどの迸るような熱情をもて余すのはさぞかし難儀な事だっただろう。沖縄の裕福な家に生まれ育った少女ツタ。自分は一体何者なのか、何者かになりおおせるのか、何がしたいのか、何を求めているのかと、いつも自問する。結婚相手の書いた物語を読み、この人ならばと一緒になり、子をなし、なにものにも替えがたい我が子を亡くし、初めての恋をする。やがて家を出、恋人と暮らし、筆を執る。やっと認められたと思った矢先、その筆が禍となり郷里からも総攻撃を受け筆を置く。波瀾万丈だが物音は静か。幻の女流作家一生だった。
2021/06/16
なゆ
なんだか不思議な読後感だった。ある沖縄生まれの女性の一生を辿るなか、強い思いがあるようでないようで。ツタは、あるいは千紗子は書きたかったのだろうか。それとも書くことに絶望してしまったのだろうか。読んだ後で、この話が実在の人物から着想を得て描かれたものだと知って、この掴みどころのない感じもありかなと。いまわのきわの、走馬灯が巡るような感じでツタの人生を眺めるような文章がどこか心地いい。
2016/11/03
Ikutan
明治の終わりに沖縄で生まれ、幻の作家となった一人の女性の数奇な運命。新たな名前を持ち、その裡なる思いを一心不乱に書きながら、時代の波にのまれていった波瀾万丈の人生。実在した人物がモデルということで、真に迫ってくる感覚で一気に読み耽ってしまいました。二度の結婚。台湾、名古屋、東京。目まぐるしく変化したその運命。聡明で頑固。「書くこと」に対する思いと読者が求めたものとの相違。そこには強い意思が。自身の生き方を問う構成ながら、素晴らしい友人や家族に恵まれたその人生、感謝の言葉を遺した最期にほっと息をつきました。
2016/11/17
ann
考えさせられた。とても考えさせられた。実在の人物モデルがいらっしゃる。ひとりの人生の感想を述べる立場にいない自分。いまわのきわに、自分は何を思うのだろう。
2016/11/24
星落秋風五丈原
ただ書くというだけでは作家になれない。自主にせよ商業にせよ、作品を発表する場があり、自分の意志通りに物語を完結させられてこそ、作家と認識される。もっと欲張れば「一定の評価を得ること」が加わるだろうが、これは生憎作者の意志だけではどうにもならない。最低限、自分の望む形で作品を完結させ、世に出す事が出来ればよしとすべきだ。全く書いたことのない人からすれば「ただ、それだけ?」と言われるような過程かもしれないが、ツタにとっては「書きたい」と思ってからゴールまでが、果てしのない道だった。
2016/10/26
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