おはぐろとんぼ (実業之日本社文庫)
おはぐろとんぼ (実業之日本社文庫) / 感想・レビュー
ミカママ
しみじみと佳い短編集。江戸の、ありそうでなさそうな架空の「堀」を舞台の物語。そこに住むひとびとは、日々の暮らしにかつかつで、先行きなんて見えない毎日を送っている。そんな暮らしの中でも、彼らを見守ってくれる存在が必ず居て。ちょっと落ちている今にこそ、この作品に出会えて感謝。「へっちゃらさ。こんなこと、慣れっこだい」
2019/05/05
じいじ
いまは亡き宇江佐真理の江戸下町の人情物語はいいですねぇ。江戸を流れる「堀」を題材にした6編、どれもしみじみと深い味わいの物語です。表題作【おはぐろとんぼ】は、父の跡を継ぐ女料理人・おせんが主人公。17年ぶりに別れた妹との再会。そしてその妹が、反りの合わない子持ちの板前への嫁入りを決心させます。泣いて、笑って、感動させてくれます。宇江佐さんの残してくれた作品が、だんだん減っていくのは心残りですが…、一冊一冊大事に味わっていきたいと思います。
2019/05/26
shizuka
これまたしみじみと「良い」お話が6編。江戸を巡る堀ごとにお話が構成されている。一番気に入ったのは『御厩河岸のむこう』。おゆりに念願の弟が生まれた。勇助はちょっと変わっていて、前世も覚えているし、未来を見ることもできる。なぜなら、自分は「のの様」だからだという。そんな弟でも可愛くて仕方がない。勇助の発する言葉、いいこともあれば悲しいこともある。結末はほろり。でもいつでも見守られているという安心感でおゆりは幸せに生きることができる。世の中に「絶対」なんてないと思うけれど、この姉弟の絆だけは「絶対」だと思う。
2017/01/07
ぶんこ
著者が心魅かれた江戸の堀を舞台にした6編の短編。 世の中の不景気と失業者の増加が心配され始めた頃に書かれたそうで、「お金がなくても幸せになるには人はどう生きてゆけばいいのかを考えながら書いていた。 堀の水を眺めれば、とりあえず心は少し落ち着く。私のささやかな思いは読者に届くだろうか」・・しっかり届きました。 血が繋がってなくても心が繋がっていた親子の話が多く、しみじみとよかったです。 後書きで髪結い伊三次がデビュー作と知りました。 シリーズ化したのは偶然だったようですが、読者にとっては嬉しい偶然。
2015/12/10
KEI
読友さんのレビューで藤沢周平作品「橋ものがたり」と深く繋がる作品と伺って手にした本。表題作を含む6編。それぞれが江戸を流れる「堀」を題材に、江戸で暮らす人々の人情をしっとり映し出す。どの作品もしみじみ心を温める。女料理人のおせんと新しく入った板場の銀蔵、娘のおゆみを 繋ぐ手打ちうどんの温かさ「おはぐろとんぼ」、自分はのの様と言い、自分や姉のおゆりの行く末を言い当てる、少しファンタスティックな「御厩河岸の向こう」は特に魅せられた。まるで江戸で堀の流れを眺めている様な心地さえした。秀作。
2019/07/31
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