桜の首飾り (実業之日本社文庫)
桜の首飾り (実業之日本社文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
桜をめぐる7つの短篇を収録。いずれもいくぶんか謎めいた人物が登場し、物語にある種の不思議な情緒を漂わせる。そして、どこがどうというのではないが、作品集のはじめから終わりまで生の哀しみの表象が通奏低音のようにつきまとう。篇中で、しいて1篇をあげるとすれば「初花」か。もっとも、読者それぞれによって違った小編が選ばれそうだ。そのことは、それほどにいずれもの個性が際立ち、粒揃いの作品群だということの証しでもあるのだろう。これからの季節に、お薦めの作品。この揺蕩うような幻想世界をぜひ。
2019/03/11
いつでも母さん
「はじめて見た桜は紫色をしていた」という千早さん、もうこのタイトルだけでゾクゾクする。それだけで『千早茜』と言うはかなげで妖しくて掴んだはずなのに実体がないモノに心が揺さぶられる・・そんな感じ。『桜』に纏わる短編7話。好みは『背中』青い桜吹雪は私も観たい。どうしてこうも『桜』に魅入らせられるのだろうか。冬に耐えて咲き誇るのは桜だけじゃ無かろうに。風に舞い花筏も好い。「散る桜 残る桜も 散る桜」
2019/03/10
hiro
千早さんの本3冊目。桜をモチーフにした7編の短編集。「春の狐憑き」:小さな管に入ってる狐が登場する幻想譚? 丘の上の美術館に勤める私と尾崎さんの会話は何故か『センセイの鞄』を思い出した。最後のシーンは薄桃色の雲で覆われた丘。「エリクシール」:訳があり男遍歴を続ける女性が秋の寺でみたのは、夭折の絵師が描いた国宝の桜図、その父が息子の死を嘆いて描いたこれも国宝の楓図。この桜図と楓図を比べると、誰もが夭折した人が作品を特別視してしまう。女性の悩みと桜をこのように関係させて短編を構成するのはうまいと思った。
2017/02/26
青蓮
桜をテーマにした短編集。「春の狐憑き」「白い破片」「初花」「エリクシール」「花荒れ」「背中」「樺の秘色」7編収録。桜が見せる美しさ、儚さ、妖艶さに人は魅せられる。「人が完全にわかり合うことはできないと私は思う。でも、繋がることはできる。美しいもの、優しいもの、鮮烈なもの、そういった心動かすものに触れた時、人の心は一瞬溶ける。そんな時に共感する誰かに出会えたなら、とても幸福なことだ。その瞬間はきっとその人の支えになるだろう。」作品を通して千早さんが言いたかった主題はまさにここにあると思う。素敵な作品でした。
2017/04/21
nico🐬波待ち中
桜で繋がる7つの短編集。特に『花荒れ』が印象的。桜はずるい。あっという間に消えてしまうくせに、人を惹きつけて止まない。毎年春になれば咲くと誰も分かっているのに、いつだって桜を見る度に目も心も奪われ、切ない想いが込み上げる。春先のちょっと肌寒い季節に、桜に誘われて出逢う人達。ぼんやり淡く漂う空気感が迷える人達を一瞬で惑わす。けれどどの短編もラストはほんのり明るい。桜の持つ不思議なパワーが人と人を繋ぎ合わせるからだろう。『あとがき』にあった、アフリカのザンビアで千早さんが見たという紫色の「桜」が見てみたい。
2018/03/24
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