ヴィクトリアン・ホテル (実業之日本社文庫)
ヴィクトリアン・ホテル (実業之日本社文庫) / 感想・レビュー
ナルピーチ
100年の歴史を持つ由緒あるホテル『ヴィクトリアン・ホテル』を舞台に、何千、何万、何十万人の宿泊客を見守り続けたホテルはその歴史にいったん幕を下ろす…。5人の視点で綴られていく物語は宿泊客の人生模様を描いた群像劇として読ませながら、彼らの優しさに徐々に触れていき後半では想像を大きく超えた仕掛けによってミステリーとしても秀逸な作品へと変貌する。そして下村先生らしく今の世に対する多様性のあるメッセージが込められた構成にもなっている。この深みのある読後の余韻を堪能し読書ならではの贅沢な時間を満喫できて良かった。
2023/06/10
えにくす
2020年、コロナ禍の最中に百年の歴史を誇るヴィクトリアン・ホテルが、閉館する。その最後の夜を過ごすべく来た5人の男女を中心に描く、人間模様の物語だ。途中の違和感の正体は、よくミステリーで描かれるアレだと分かったけど、ここまで小刻みに来るとは思わなかった。しかも巧みな多重入れ替え等で、半分は騙されたよ。テーマは優しさだったが、思いやりも時には人を傷つけるには納得した。とても読みやすくて、あっという間に読破出来る。綺麗な物語だけど毒や刺激的要素はなく、それが物足りないと感じる読者も居るかも知れない。★3.8
2023/07/11
yukaring
これは騙されること間違いなし❗️ホテルならではの舞台装置を最大限に活かしたホテルミステリ。伝統ある格調高いホテル「ヴィクトリアン・ホテル」が改装のため100年の歴史にいったん幕を下ろす。この歴史あるホテルの最後の夜を楽しむ人々は女優や作家、仲のよい老夫婦、やり手のビジネスマンやスリなど様々な職業や立場の人々。彼らの事情や思いが交差していくヒューマンドラマかと思いきや最後にガラリと世界が見え方を変えるギミックに驚く。そしてうまく収拾した大団円には感動も待ち受ける爽やかな読後感だった。
2023/02/22
アッシュ姉
優しさや善意が人を傷つけることもある。愛好する物語が誰かにとって不快に感じることもある。感じ方、受けとめ方は人それぞれで多様性という言葉が何度も思い浮かぶ現代を象徴するようなテーマという第一印象だったが、なるほど、そういうことだったのか。気づいてもよさそうなのに全くわからなかった。スリリングな展開を期待していたので戸惑ったが、読後感はよきよき。
2024/03/22
いたろう
百年の歴史を持つ日本有数の超高級ホテル、ヴィクトリアン・ホテルが、改築のため閉館となる。そのホテルに集う、女優、フリーター、作家、ビジネスマン、自営業者という、バックグラウンドも生活のレベルも全く異なる5人の群像劇。各々の人物がお互いに繋がり、物語が広がっていく。という構図の小説として読んでいたが、終盤に至り、そう単純な構図ではないことが分かる。そういうことだったのか。そして、ラストに至る物語の回収の見事さ。優しさが人を傷つけることもある。それでも、優しさを持ちたいと考える人々にエールを送りたくなる物語。
2024/11/16
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