加藤周一青春ノート 1937-1942
加藤周一青春ノート 1937-1942 / 感想・レビュー
奥澤啓
私事だが編者の一人立命館大学衣笠総合研究機構「加藤周一現代思想研究センター」研究員半田侑子氏とはFBで交流がある。半田氏によれば、加藤没後十年になる今年、1919年9月19日生まれの加藤にちなみ、9月に東京などで大きな催しの企画があるとうかがった。参加したい。加藤は大言壮語や権力を嫌い、夕焼けの美しさや野に咲く一輪の花にかぎりない美しさを感じる人だった。その感受性に私も共感する。戦争は人だけでなく、野に咲く花の美しさも踏みにじる。人間を敬し人間が生み出すすべてを敬した。それが加藤周一であった。
2019/07/30
奥澤啓
その萌芽を知る事は極めて有意義であると私は考える。フランス文学への若き日からの傾倒、芥川龍之介への共感(特に「侏儒の言葉」)、「美」への共感と愛着。それらを踏みにじる戦争と戦争につながるすべてへの憎悪。加藤は太平洋戦争でふたりの親友を亡くした。その理不尽な死への怒りを終生忘れる事はなかった。晩年、鷗外、茂吉、杢太郎、医師にして文筆家でもあったこの三人についての論考をまとめる作業にとりくんだものの日本が再び戦争への道を歩むのではないかと思う危機感が「九条の会」の活動への動機となり、その論考は完成しなかった。
2019/07/30
奥澤啓
最後に私が好きな加藤の言葉を紹介したい。「僕はね、栄華の極みっていうか、力の大きいことをあんまり求めないないんですよ。例えば夕暮れの空とか秋草の花とか、あるいは尊敬する友人とかひとりの少女とか、そういうものの中に限りない豊かさがあると思うんですね。その豊かさ美しさっていうものを見つけていくことの方が権力とか金とかを求めるより私には合ってる。簡単な生活で豊かになること沢山あると思うんですね。」(「週刊文春、1994年8月11号より)。この言葉こそ加藤周一という人間をよく示すと私は考える。
2019/07/30
奥澤啓
加藤の膨大な文業はいまだに全貌を知る事は容易ではない。平凡社『著作集』の増補版出版を待望する。限りない読書、ルーズリーフ上でのメモや思索。それらは日本語だけでなく、英語、仏語、独逸語、ラテン語、漢文などで記された。それらを理解するのは読み手に大変な知力を求める。リーズリーフは、ごく一部が鷲巣氏の加藤論で紹介されているため読むことが可能だ。加藤の八十九年に及ぶ生涯の大半は読む事と書く事に費やされた。それに大学での講義、「九条の会」の活動が加わる。それらの活動の根源は若き日のノートのすでに萌芽がある。
2019/07/30
奥澤啓
それらは『著作集』と『自選集』で知る事ができる。本書は、現代の読者の便宜を考え注釈が施された。その注が若き日のノートの理解を助ける。若い世代には裨益する事大である。加藤番の編集者を三十八年間も務めた鷲巣力氏はすでに三冊の加藤論を上梓した。立命館の加藤周一文庫の運営の陣頭指揮にあたるのも鷲巣氏である。本書で鷲巣氏は「加藤はゆっくりと時間をかけて自分を育てた」と指摘する。「早熟でもあるが晩成でもある」とも指摘する。その指摘に私も同感する。加藤はたゆまぬ努力の人であった。一万枚ものルーズリーフがそれを物語る。
2019/07/30
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