大理石
大理石 / 感想・レビュー
rinakko
“一個の好色漢”と設定された作中人物フェレオル・ビュックが、婚約者をほっぽり車で旅をしている。イタリアの青い海と焼けつくような太陽、陽光の中のうたたね。海岸から湖、そしてまた海へと。旅先では時に驚くべき奇想のオブジェ(例えばヘルマフロディトゥス像の大規模な模造は、凝った仕掛けの内部に入れる…とか)に出会い、時に死の劇場の見物人に混じる…。幾度となく繰り返される鮮烈な海の描写と、徐々にグロテスクな様相を帯びていく死のイメージとの組み合わせがあまりにも激しくて、くらくらするような読み心地だった。
2011/10/06
Mark.jr
何度も読み返したくなる本なので、白水社あたりで復刊してほしいですね。
2019/02/10
渡邊利道
机の上の物品からイタリアについての小説を書くにあたって、狂言回しに一人の好色漢を呼び出し、彼の冒険を連作形式で書いていく。アルファベット娼館の寓意建築、孤島の森に潜むプラトン的立体。夢日記、そして死にゆく女性たちを見守る男たちの習俗、と、バロックで硬質な寓話的想像力で細部に極端に拘った作品。ラストでメタフィクショナルに結末を放棄するのも技巧よりは優雅な放逸を感じさせるが、好色漢が最後に囚われる死の観念はひたすら不吉だ。
2017/08/24
ぜっとん
微視的なイマジネーションの細密画という感じで、筋じたいも一個の細部でしかない、これは散文というより詩に近い。言葉の醜を示す装置≪ヴォキャビュラリー≫、巨大なヘルマフロディトスの像と多面体の内部の旅、夢の陳列、それから老女の死の劇場見物という、いかにもダンディなモティフに満ちている。すてきに格好いいだけの小説というのもよいものだ。
2015/04/11
季奈
小説なるものは筆者の生き写しとなる要素が疎らにでも見られるものだが、本著はそれらとは一線を劃している。 マンディアルグの代理としての主人公を通じて映される場景は、舞台装置がめくるめく変化する彼自身の放浪する想像力ではなかろうか。 その舞台装置に関しては、アールデコ調なイメージを齎すプラトン的立体や、ミニアチュールな物体に内在するマクロコスモスなど耽美な描写が多い。 ただ便宜的に後書きの言葉を借りて表現したミニアチュールだが、その細微さが惹き起こす特性はマクロコスモスのそれとは別物な気がしてならない。
2019/05/30
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